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日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(2)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん

J-CASTニュース / 2024年8月6日 20時41分

日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(2)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん

シニアと若者、一緒に暮らして元気に(写真はイメージ)

広い一戸建ての家に1人、あるいは2人で暮すお年寄り。一方、高い家賃に悩む若者。若者が独居老人の空き部屋に住めば、高齢者の孤立化を防げるし、住宅費軽減にもつながり、一石二鳥となる。

第一生命経済研究所の福澤涼子さんが、「異世代ホームシェア」という、世界に広がる血縁関係によらない世代間の支え合いを提言している。

いったい、どんな仕組みなのか。昭和によくあった「下宿」とどう違うのか。話を聞いた。

親に会わせる前に「彼氏の品定めをしてほしい」

<日本に復活した現代版下宿「異世代ホームシェア」 高齢者と若者が支え合い、双方がwin-winになる秘密は?(1)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん>の続きです。

――ほかの家主さんはどうですか。

福澤涼子さん 埼玉県のBさん夫婦。Bさんが70歳を迎えた晩、入居者たちがサプライズで古希を祝ってくれたそうです。

Bさんは70歳の誕生日に何ごともなく寝ようとしたら、若者たちに別の場所に連れていかれました。そこに誕生日の飾り付けがしてあったそうです。

Bさんの家では住人たちとBさんで定期的に食事会をしています。そこでは若い人はいつもコンビニご飯ばかりで、野菜不足だからと、Bさんが野菜たっぷりの食事を作ってくれるお礼も兼ねたサプライズなのです。ちなみに下の写真は、Bさんが作っている野菜料理です。

――とても、いい話じゃないですか!

福澤涼子さん 神奈川県のCさん夫婦は、住人の若者たちからいろいろな相談を受けるそうです。「就職活動で内定を取ったけど、どこの会社に行けばいいだろうか」とか、「親に彼氏を紹介する前に、人物を見定めてほしい」と彼氏を連れて来るとか。

若者って、自分の親には素直に相談できない面があるじゃないですか。Cさんが親代わり、いえ人生の先輩としての相談者になっているのです。退居して結婚した人が、子どもを連れて再訪することもよくあるそうです。

Cさん自身も若者たちから、いろいろ教わっています。今の若者にとってステップアップのための転職や起業は当たり前の価値観になっています。そうした価値観に触れてCさん自身も次の目標ができたと話しています。

「困った人」「変わった人」を入居させるリスクも

――いやあ、いい話ばかりじゃないですか!

しかし、若者とホームシェアをすることに問題点はないのでしょうか。

福澤涼子さん 一緒に住むうえで、人間的に、性格的に合わない人がいるものです。変わった人とか、妙に攻撃的になる人とか。そんな人が入居してきて、「ストレスで夜も眠れなかった」という人がいます。

空き室をすべて埋めて、少しでも利益をあげようとすると、そういう少し「う~ん」という意に沿わない人でも入居させてしまう場合があります。異世代ホームシェアでは儲けようと思わないことです。もともと、あまりお金を持っていない若者が対象なのですから。

――夫婦だってそうですが、人間って一緒に暮らしてみないとわからないものですよね。

福澤涼子さん そのとおりです。ある高齢者の方は自分が楽しみために始めたのに、「困った人」のために苦しむのは意味がない。入居者を選ぶようにしてから楽になったと言っていました。特に高齢者の方は自分の家ですので、合わないからと言って出ていくことができません。自分に合った入居者を選ぶということも大切なのかもしれませんね。

――ホームシェアをするうえで大事な注意点は何でしょうか。

福澤涼子さん 基本的なことですが、他人と暮らすわけですから、家の中にいるときはきちんとした身だしなみをすることがルール。また、若者同士の生活とは違って、夜遅くまで騒ぐというようなことはやめましょう。若者同士よりもそうした生活音には気を遣う部分が大きいかもしれませんね。

ただ、入居者同士の人間関係がうまくいっていると、生活音が気にならないという研究もあります。逆に、うまくいっていないと、ますます気になってストレスが高まります。やはり、人間関係を良くすることが一番大切ですね。

異世代ホームシェアに大学が取り組む2つのメリット

――異世代ホームシェアは今後、日本に広がるでしょうか。また、広がるためには何が必要だと思いますか。

福澤涼子さん 高齢者の孤立が社会問題になっていますから、ぜひ広がってほしい。しかし、マッチング事業者に聞くと、安い家賃で住みたい若者の需要は大きいのに、住居を提供する高齢者の数が圧倒的に少ない状況です。そもそも、こういう仕組みがあることを知らない人が多い。

小さなNPO法人やシェアハウス事業者が高齢者に声をかけても、怪しまれて一歩踏み出せない人が多いと聞きます。やはり、自治体が前面に出ないと、信用されない面があります。日本の自治体で取り組んでいるのは、京都府と京都府京田辺市、奈良県大和郡山市です。

――東京都や大阪府などが率先して取り組んでくれると、全国の自治体にインパクトがありますね。

福澤涼子さん 大学ももっと前面に出てほしいと思っています。ホームシェアをした学生に聞くと、「これまでは家と大学とバイト先の三角形だけを往復する生活でしたが、家主さの地域の祭りや行事に参加するようになりました」という人が増えています。

――そのことと、大学が前面に出ることと関係があるのでしょうか。大学にはどんなメリットがありますか。

福澤涼子さん メリットは2つあります。

まず1つ目は、大学には「地域貢献」という役割もあるはずです。学生の意識が変わり、地域との交流を大事にするようになれば、学生を使って地元に貢献することになります。

2つ目は、少子化が進み、学生数が減っている大学にとっても入学者を増やすいい機会になります。現在、親の仕送り額が年々減少しているため2時間もかけて自宅から通学する学生が増えています。

異世代ホームシェアを大学がバックアップして、自分の大学のそばに学生が住めるようになれば、学生の進学の選択肢が多くなり、自分の大学に引き寄せることができます。大学と地域にとってもウィンウィンの関係になるでしょう。

シングルマザーが、高齢者と一緒に住めれば

――なるほど。最後に特に強調しておきたいことがありますか。

福澤涼子さん 日本は家族で支え合う意識が強い社会ですが、最近は未婚のまま高齢を迎える人が増えています。そういう高齢者と若い世代との交流が増えていけば、家族ではない人同士が支え合う新しい仕組みが生まれていくでしょう。

また、異世代ホームシェアの対象を若者だけでなく、母子家庭など住まいに制約のある人々にまで広げていける可能性があります。

たとえば、シングルマザーが高齢者と一緒に住めるようになると、家主さんには孫ができるようなものだし、シングルマザーも子育てのアドバイスをもらうこともできるでしょう。

お互いに助け合う、もっと温かい、素敵な社会になっていくと信じています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
福澤 涼子(ふくざわ・りょうこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員

2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。5歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。

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