21歳、体験者に背中押され被爆伝える…「若い私たちが行動することで世界は変わる」
読売新聞 / 2024年8月7日 7時41分
原爆投下から79年がたった6日、広島では市民らが犠牲者への追悼の祈りをささげた。被爆者が高齢化する中、体験の継承が課題として立ちはだかる。あの日の悲しみを語り続ける被爆者たちは、次の時代を担う若い世代に平和への願いを託す。被爆80年に向けた歩みが始まる。
広島市の大学3年増本
広島市出身の増本さんは幼い頃から学校などで被爆者の話を聞き、核兵器の恐ろしさについて考えることが多かった。「被爆した人たちはつらい記憶を思い起こして語ってくれる。私ができることは何だろう」。安田女子大(広島市)に進学し、伝承者を養成する市の講座を知った。受講を決め、多くの被爆者から体験を聞いた。
その中に岸田さんがいた。岸田さんは5歳の時、爆心地から約1・5キロの自宅で被爆した。崩れた家の土壁の下敷きになり、母に助け出された。足が悪かった祖父を泣く泣く置き去りにして、弟を背負う母に手を引かれて逃げた。
「思い出したくないことや言いたくないこともあるのでは」。講座でそう質問された時の岸田さんの答えが、増本さんの胸に響いた。「こうして聞いてくださるから思い出せる。質問されることで私の証言活動もより充実する」。この人の体験を語りたいと思った。
受講中には、「若い自分が伝承者をしていいのか」と迷うこともあった。岸田さんに打ち明けると、「若い子が関心を持ってくれてうれしい」と背中を押してくれた。
約2年かけて岸田さんから聞いた体験を原稿にまとめたり、話し方を学んだりして伝承者になった。増本さんは7月4日、安田女子大で教職をめざす同級生らに岸田さんの体験を語り、訴えた。「人ごとに感じられても仕方ないと思う。でも、将来教壇に立つ身として知ってほしい」。顔をしっかり上げて聞いてくれた。
増本さんは6日朝、平和記念式典に参列し、市民代表として慰霊碑に献花した。来春から米国などに1年間留学する。「これから生きていく世界は私たちが行動することで変わっていく。伝承者としての責任の重みを感じながら、岸田さんの体験や原爆のことを伝えたい」。そう誓った。
岸田さんはこの日、体調などを考慮し、自宅のテレビで式典を見守った。「若いエネルギーで世界に羽ばたいてほしい」と託した。(広島総局 山下佳穂、岩崎千晶)
◆被爆体験伝承者=被爆者に代わって体験を語り継ぐ人で、広島市が2012年度から養成を進めている。講義や被爆者とのミーティングなどの研修を受ける必要がある。現在、21~87歳の226人(女性162人、男性64人)が任命されており、被爆者計約20人の体験を語り継いでいる。
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