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「セーヌ川で泳げるか」と聞かれたら「とりあえずノン」と答えるフランス人気質も論争に影響か…現場を見た記者の感想は?

読売新聞 / 2024年8月7日 9時40分

トライアスロン会場からやや上流のセーヌ川に停泊し、住居として利用されている船(8月4日午後3時9分、パリ市で)=深井千弘撮影

[パリ五輪こぼれ話]

 水質悪化の影響で一部の競技が延期されたものの、セーヌ川でのスイムが注目されていたパリオリンピックのトライアスロンは男子、女子、混合の全3種目が5日までに終了しました。開催の可否は当地でも話題となりましたが、大腸菌などの測定値を、競技規則で定めた基準値と照らし合わせるなどして、大会側が開催可能と判断した結果です。8、9日には再びセーヌ川が会場となる水泳のオープンウォーターが残されていますが、水質浄化に向けて多額の予算を投じてきたフランス政府やパリ市などの取り組みは、ひとまず格好が付いた形です。

 流れる水をこの目で見た印象を率直に言えば、泳ぎたいとは思いません。日によって変化はあるものの、緑がかったり、降水後には茶色っぽく濁ったりしています。実際、街行く人に尋ねても、同じような印象を持つ人は多いようです。パリ在住のステファニー・ベスクさんは「泳ぐなら海へ行く。セーヌ川で泳ぐことに、多くの人は抵抗感があると思う」と話します。とある女性は「これを見てよ」と川岸を指さしてくれたことがありました。流れがよどんだ場所ではありましたが、そこにはペットボトルや発泡スチロール片らしきゴミなどが浮かんでいました。

 ただ、否定的な意見ばかりかというと、必ずしもそうではありません。水質向上の取り組みは肯定的に受け止められていますし、以前より川はきれいになっていると話す人もいます。さらには、「泳いでも問題ない」と力説してくれる人もいました。トライアスロンの発着点となったアレクサンドル3世橋から500メートルほど上流のセーヌ川に浮かぶ船上で生活するペラン夫妻です。

 辺りに船は20隻ほど停泊しており、ペラン夫妻もそうした世帯の一つ。妻のカロリナさんは「生活排水を陸上の下水道へ流す設備に1万4000ユーロ(約224万円)もかけたというのに、なんで『汚い、汚い』って言うのよ」と憤まんやるかたない様子です。船上の生活排水はかつて川に流されていたそうですが、約1年前に水上生活を始めるにあたり、行政からの助言に沿って、下水の排水設備を新設したそうです。「日によって水質は変わるけど、開会式の2日前には息子も泳いでいた。間違って船から落ちて、そのまま泳いでいたけど、何の問題もなかった」と振り返ります。

 夫のオスワルドさんも同意見です。オスワルドさんはトライアスロンの愛好家だそうですが、パリ近郊ベルサイユでの大会に出場した際にはさらに汚い水の中を泳いだことがあるそうです。「あれは最悪の水だった。それに比べれば、セーヌ川はきれいだよ」。さらに「東京だって、そこまできれいではないでしょう」と続けます。確かに、東京・お台場で2019年に行われた東京パラリンピックのテスト大会では、スイムコースの水質悪化により、ランとバイク(自転車)のデュアスロンに変更されたこともありました。

 ならばメディアは、水質の問題を誇張しすぎなのでしょうか――。「そうだよ」と息せき切ったようにオスワルドさんが語り始めます。「フランスでは学校教育で哲学を学んで、批判精神を身につける。何かを問われたら、まず答えは『いいえ』。セーヌ川は泳げるくらいきれいなんですか、と聞かれたら、『いいえ』。それがフランス人なんだよ」

 個人の趣向も絡み、決着が付きそうもないセーヌ川の水質論争。安易に主流派には迎合しないオスワルドさんもまた、根っからのフランス人なのでした。(デジタル編集部 深井千弘)

 パリオリンピックを巡る様々な話題を、ユニークな視点で随時お届けするコーナーです。

ふかい・ゆきひろ 1977年生まれ。2000年に入社し、地方支局や運動部などを経て、2022年からデジタル編集部。オリンピックの取材は3年前の東京大会に続いて2度目。好きなフランス映画は「最強のふたり」。

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