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レスリング金の文田健一郎、東京は銀で抜け殻に…「勝たなきゃ意味がない」涙で妻に決意伝える

読売新聞 / 2024年8月7日 22時19分

レスリング男子グレコローマン60キロ級の表彰式で金メダルを手にする文田健一郎選手(6日、パリで)=関口寛人撮影

 第33回夏季五輪パリ大会は第12日の6日、レスリングの男子グレコローマン60キロ級で、2021年東京大会銀メダルの文田健一郎(28)(ミキハウス)が、金メダルを獲得した。グレコローマンの日本勢としては、1984年ロサンゼルス大会52キロ級の宮原厚次以来、40年ぶりの優勝となる。

攻守に隙のない戦いで表彰台の真ん中に

 表彰台の真ん中に飛び乗る。両手を突き上げ、喜びをかみしめるように目を閉じた。レスリング男子グレコローマン60キロ級の文田選手。準優勝に終わった東京五輪後、悩み抜いた末にたどり着いた攻守に隙のない戦い方で、五輪の「呪い」を解いた。

 世界選手権王者として、圧倒的な金メダル候補として臨んだ前回の東京五輪。決勝で敗れ、「ふがいない結果に終わってしまって申し訳ない」と号泣した。

 山梨県韮崎市で生まれ、経験者の父に鍛えられた。背中の柔らかさを生かした豪快な「反り投げ」が強み。その武器で頂点に立つことを思い描いた。だが、相手に研究され、東京大会で一度も決められなかった。

 酒に逃げた。1週間、朝まで飲み続け、昼過ぎに起きて、またあおった。その後もマットに上がらず、1か月もたつ頃には、体重が74キロになっていた。

 悔しさとともに残ったのは「金メダルを取るまで、この呪いは解けない」という思い。「金を逃した罰」として、投げを捨てることを自らに課した。ディフェンス練習を重ね、僅差でも手堅く勝つ道を選んだ。

 葛藤がなかったわけではない。自宅で妻の有美さん(37)に漏らした。「勝たなきゃ意味がない」「金メダルを取らないと」。涙がこぼれた。大好きだったレスリングが面白くなかった。

 気持ちが変わるきっかけは、昨年の世界選手権決勝だった。相手は逃げずに真っ向から組み合ってきた。久しぶりに試合を楽しいと思えた。豪快に投げられて敗れた時、気付いた。

 「レスリングの戦い方に決まりはない。やっぱり、楽しまなきゃだめだ。自分のやりたいようにやろう」

 投げを解禁し、織り交ぜ始めた。防御を磨いた期間は無駄ではなかった。耐えながら勝つ選択肢ができ、相手の出方に応じて柔軟に戦えるようになった。

 年齢を重ね、肉体の変化を感じている。昨年は人生で初めて左太ももを肉離れした。首痛にも悩まされた。それでも、頑張りたい理由がある。妻や2023年1月に誕生した長女・ 遥月 はづきちゃんの存在だ。

 娘の記憶に残るよう、できるだけ長く競技を続け、勝っている姿を見せたい。決勝で中国選手を破ると、妻子が見守る客席に指で合図を送った。

 「家族の存在がなかったら、もう一回目指そうとは思えなかった。感謝してもし尽くせない。メダルを目指してきた時間、そこで感じたことが今、重みとなってこの首にかかっている」

 投げ、守り、勝ち抜いた今大会。「最終的に行き着いた自分のレスリング全てが出たと思う」。手にした金メダルを何度も見つめた。国歌が流れる。聴き入る顔は、穏やかだった。(上田惇史)

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