民主派最大勢力タイ前進党に解党命令…「不敬罪」改正選挙公約、憲法裁「国家転覆させようとした」
読売新聞 / 2024年8月8日 6時57分
【バンコク=佐藤友紀】タイの憲法裁判所は7日、民主派最大勢力「前進党」に対し同日付で解党を命じた。昨年5月の下院選で第1党になった同党が解党されたことに対する国民の反発は必至だ。
憲法裁は、同党が昨年の下院選時に王室への侮辱を罰する「不敬罪」を定めた刑法112条の改正を選挙公約に掲げたことを「国王を元首とする国家を転覆させようとした」と指摘した。ピター・リムジャラーンラット前党首を含む昨年下院選時の幹部を10年間の公民権停止とした。
幹部を務めた下院議員6人は失職し、その他前進党所属議員は60日以内に他党に移籍しないと失職する。
判決後、ピター前党首らはバンコク市内の党本部で記者会見し、「我々は希望を捨てていない。仲間が新党で意思を引き継いでくれる」と話した。前進党は解党命令を見越して後継政党の設立準備を進めてきた。前進党は現在、下院(定数500)で148議席を占めており、円滑な新党移籍で勢力の維持を図る構えだ。
憲法裁は今年1月、同党が昨年の下院選で王室を侮辱する公約を掲げたとして違憲判断を示した。これを受け前進党と対立する親軍派の元上院議員らが選挙管理委員会に同党の解党請求を申し立て、選管が3月、憲法裁に解党命令を出すよう求めた。
憲法裁判事は軍政下で選ばれ、軍の強い影響下にある。憲法裁が政党を解党処分にする例は多発しており、2020年には前進党の前身「新未来党」が、07年、08年、19年にはタクシン元首相派の政党が解党された。
タイでは国王の権威が絶対的で、王室を護衛する軍など保守派が国を支配し王室に近い財閥など既得権益層を守ってきた。貧困層などはデモで対抗したが、軍は1932年の立憲革命以降、未遂も含め19回のクーデターで権力を握ってきた。
前進党はこうした国の構造を変えようと、王室や軍の改革を訴え若年層を中心に幅広い支持を得て下院選で躍進した。しかし、軍が事実上指名した当時の上院議員がピター氏の首相選出を阻み、親軍派政党とタクシン元首相派政党「タイ貢献党」などの連立政権が発足した。
前進党本部には7日、多くの支持者が詰めかけモニター越しで判決を見守った。解党命令が出ると「この国は民主主義国家ではないのか」と声を上げ、中には泣き叫ぶ人もいた。
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