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「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」の便座のないトイレに駆け込んだ独選手、有名カフェの客足は「変わりません」

読売新聞 / 2024年8月8日 10時14分

[パリ五輪こぼれ話]

 エッフェル塔でのビーチバレーに、ベルサイユ宮殿での馬術……。パリオリンピックの競技会場やその周辺には、人気の観光名所が目白押しです。オリンピックを機に、観戦客が大挙して押しかけた観光スポットという意味では、このカフェも、その一つに含めていいでしょう。2001年に公開されたフランス映画のヒット作「アメリ」の舞台となった「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」です。

店の前がコースに

 映画「アメリ」は、パリ・モンマルトルのカフェで働く女性主人公アメリ・プーランの日常や恋を描いたラブコメディー。映画がヒットした際は、舞台となった「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」で、作中に登場するスイーツ「クレーム・ブリュレ」を食べることが、観光客の間でブームになりました。そんなカフェが、パリオリンピックで再び活気づいたのは、店の前の通りが自転車ロードレースのコースに設定されたから。モンマルトルの丘を駆け上がるサイクリストに声援を送ろうと、レース当日の沿道には大勢の観戦客が集まりました。

思わぬ出来事で脚光

 店の前に人垣が出来たのは、通り沿いの他のカフェや商店も同じですが、「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」では、さらに脚光を浴びる出来事も起こりました。8月3日に行われた男子のレース中、ドイツ代表のニルス・ポリット選手(30)が突然、自転車を止め、沿道の人垣をかき分けて、店内に駆け込んできたのです。

 理由は、フランス国内外のメディアがすでに報じているとおり、トイレを利用するためでした。前代未聞のハプニングを聞き、記者(=深井)がその2日後、「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」を訪れると、2人の男性店員が当時の状況を説明してくれました。

 カウンターを切り盛りするサミ・ブードゥードフェリさんは「オリンピックをやっているのは知っていたし、いきなりドイツのジャージーを着た人が入ってきたから、これは緊急事態だ」と直感したそうです。当時、店の内外にいた客は100人ほど。ポリット選手は、客の一人に付き添われ、「アメリ」の写真が飾られた通路を通って、店の奥にあるトイレへ案内されていったそうです。用を済ませて出てくると、再び人垣をかき分けて、コース上に止めた自転車へ戻っていきました。

店内滞在時間は「5分」

 フロアを担当するアントワンヌ・テシエさんの記憶では、店内に滞在していた時間は「5分くらいだったかな」。フランスの地元紙「ル・パリジャン」の取材に、ポリット選手は「途中でおなかの具合が悪くなった。本当に笑いごとじゃなかった」と答えています。テシエさんは「これがそのトイレだよ」と、男女別に分かれた個室へ記者を通してくれました。

 記者「これですか…。便座はないんですか」

 テシエ「ないよ」

 再びモンマルトルの丘を登りだしたポリット選手は、トップから19分55秒遅れとなる6時間39分29秒の70位でゴール。レース終盤でのトイレタイムが響いたとは言え、全90選手のうち13人が途中棄権する中、パリ市内外を巡る273キロのコースを走りきりました。自転車レースの最高峰「ツール・ド・フランス」でステージ優勝を果たしたこともある実力者の意地と言えそうです。

次はクレーム・ブリュレを

 さて、思いもよらぬ形で注目を集めた「カフェ・デ・ドゥ・ムーラン」。有名カフェの客足は再び伸びたかと思いきや、テシエさんは「変わりません。いつもと同じです」と言います。「一般の方がトイレの利用で立ち寄る時は、なにか飲み物でも頼んでくださいね」とブードゥードフェリさんも続けます。てきぱきと仕事をこなしつつ温かく応対してくれた2人の姿に、今度はクレーム・ブリュレを味わいに来なければ、との思いを強くしました。(デジタル編集部 深井千弘)

 パリオリンピックを巡る様々な話題を、ユニークな視点で随時お届けするコーナーです。

ふかい・ゆきひろ 1977年生まれ。2000年に入社し、地方支局や運動部などを経て、2022年からデジタル編集部。オリンピックの取材は3年前の東京大会に続いて2度目。好きなフランス映画は「最強のふたり」。

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