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「現状と中長期の金融システムの安定に取り組むのが基本のき」「資産運用立国の取り組みはしっかり続けていく」…金融庁・井藤英樹長官

読売新聞 / 2024年8月9日 11時59分

インタビューに応じる井藤長官(金融庁で)

 日本銀行が利上げを開始し、経済を取り巻く環境が変わり始めた。1月に新NISA(少額投資非課税制度)が始まり、資産形成に対する関心が高まっている。損害保険会社では、保険料の額を事前調整していたことが明らかになり、金融庁が態勢の改善を求めている。7月に就任した井藤英樹長官に話を聞いた。(聞き手・遠藤雅)

リスクと変化に対応

 ――就任の抱負を。

 「前長官の態勢から大きく変わることはないが、やはり、日本経済と金融を取り巻く環境が大きく変化している。金利、為替、株価といった市場動向、さらにいえば、地政学リスクもある。米大統領選のような政治的な要素もある。テクノロジーが社会に急速に浸透する中で、サイバー攻撃も起きている。国家安全保障的な課題はクローズアップされている。リスクと変化に対応しなければならない。

 現状、さらには中長期の金融システムの安定に取り組むのが基本のきだと考えている。短期であれば、(金融システムのリスクを分析して政策対応を図る)プルーデンスについて、金融機関のバランスシートを踏まえて、モニタリングすることにつきる。中長期的なビジネスモデルの維持も金融システム全体の安定には大事なので、対応を進めていきたい。

 資産運用立国の取り組みはしっかり続けていく。変化には迅速かつ柔軟に対応しなければいけない。金融庁のミッションは、企業経済の持続的な成長と安定的な資産形成によって、国民の生活水準を増大していくということだ。たとえば、情報格差がある中で、個人や家計の利益を守っていく。金融機関に顧客本位の業務運営をしっかりと勘案してもらう。これは変えてはいけない。市場の公正、透明性みたいな話も譲ってはいけない。

 世の中が変化し、高度な金融サービスやビジネスモデルの変化といった様々なことがあり、対応していかないと、良い金融サービスが提供できるのかという問題意識はある。これまでもそう考えてきたが、柔軟、迅速に、変化に対応していきたい。

人口動態の変化「インパクト」

 ――日本経済について。

 「日本は、人口動態の変化がマクロ経済にかなり大きなインパクトを与え始めている。地方の人に話を聞いても、今後、困難な課題が出てくると思う。国民全体が的確に取り組めば、生活水準の維持向上はできると思っている。今まで通りでは働き手が少なくなる。かなり投資も必要で、後継者がいない企業をしっかりとつないでいかないといけない。

 資金面を含めて、金融機関に期待される役割はますます大きくなる。役割を果たすためには、金融機関自身の経営の健全性と、持続可能性が大事だ。そういた観点で、対応を続けていきたい。

 目玉となる取り組みとして、事業性融資の推進プロジェクトチームを立ち上げた。一つは企業価値担保権というものを円滑に執行しなければいけないと考えており、準備的な側面もある。構造的に難しい経営環境が続く中で、金融機関はどうすればいいか。金融庁はきれい事ばかり言っているのではないかと受け止められてきた部分はないだろうか。

 金融機関の置かれている環境は様々だ。ビジネスモデルも一律ではない。免許業種として、しっかりと金融仲介機能を果たしてもらい、経営の持続性や成長性を確保するということで、経営陣が真剣に取り組んで組織をリードしてもらう必要がある。われわれも金融機関の状況を把握して、表面的ではない腹落ちする対話をしていきたい。プロジェクトチームを一つの核として、サポートしたい。

 地域金融機関の担当課長もやったし、監督もやった。地域経済への思いは非常に強い。地域における金融仲介機能を果たして頂きたいという思いがある」

収益機会の増加

 ――日銀が追加利上げを決めた。金融機関のリスクも変わってくる。

 「金利がフラット、あるいは水没したような状況から比べると、リスクの性質は変わっていくと思う。金利が上昇すれば、保有している債券の評価損もあるし、調達では、預金金利の上昇でコストが上がっていく。他方で、貸出金利は上昇が見込めるし、新たに購入した債券の運用利回りの向上も期待できる。収益機会の増加につながる面もある。

 金融機関のバランスシートやビジネスモデルによって様々なので、一概に言うのは難しいが、日本の金融機関は総じて充実した資本基盤を備えているし、安定している。今後も、健全性を失うことがないように、しっかりと収益やバランスシートの影響を踏まえて、資産負債両面の管理状況やストレス時の対応など、個別金融機関のリスク管理体制も対応するにつきる。

 貸出金利の上昇を通じて、顧客にも影響がある。住宅ローンを借りた個人を含めて、丁寧に説明し、対応してもらうのは重要だと思う。しっかりモニタリングしたい。モニタリングの軽重は、リスクが高まるところにリソースを傾注するということを基本にやっており、注視していきたい」

 ――地方銀行再編について。

 「金融機関もテクノロジーは進展しており、投資負担もあるし、人材も必要だ。サイバー攻撃やマネーロンダリングの対応もあり、規模の利益を視野に入れて、統合していくのも一つの選択肢だ。

 われわれが押しつける話ではなく、いかに持続可能なビジネスモデルを構築していくか、しっかり経営判断としてやってもらいたいし、応援していきたい。合併・統合というのは一つの道だが、それだけではない。成功した信用金庫のビジネスモデルは必ずしも合併・統合を必要とするものではないかもしれない。カルチャーが違ったりするとコストもかかる。

 何が本当に最善なのか。頭取や社長がご自身の任期の先を見据えて、真剣に経営レベルで取り組んでもらいたい。われわれは横串で全国の取り組みが見られる状況にある。可能なサポートを行っていきたい」

監督レベルでやるべきことも

 ――損害保険業界は不祥事が相次いだ。

 「大変遺憾であるということに尽きる。先般、公表した有識者会議の報告書も踏まえ、損保業界が着実に取り組むべきこともあれば、(金融庁が)監督レベルでやるべきこともある。制度的な議論が必要だと指摘されていることもあり、法改正の必要性も含めて検討したい。

 今回はまず、損保が中心の話だ。似たようなことがあれば、保険全般ということもあるかもしれない。損保業界として、個社として、今までの商慣行や市場環境だとか、カルチャーの面でコンプライアンスに問題があったところもあるのではないか。良い体制を整備してもらうことが何よりも重要だと考えている。国民なり、利用者なりに本当に信頼される業務運営をすることが大事だと思う」

◆井藤英樹氏 (いとう・ひでき) 1988年東大法卒、旧大蔵省入省。金融庁総合政策局政策立案総括審議官、企画市場局長などを経て、2024年7月から金融庁長官。金融庁の発足前から、金融行政が長い。財務省では、文部科学分野の予算を担当する主計官や広報室長の経験もある。民主党政権下では、亀井、自見両金融相の秘書官を務める。直近は、新NISA(少額投資非課税制度)の拡充に関わった。岡山県出身。

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