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蚊と人類の長き戦い、歴史変えた「緑の渦巻き」…「スーパー耐性蚊」対策でも日本がリード

読売新聞 / 2024年8月10日 5時0分

 蚊は刺されるとかゆいだけでなく、病気を媒介し、年70万人以上を死亡させる怖い存在だ。人類が開発した殺虫剤に耐性を持った蚊も現れた。戦いは続く。

万葉集の和歌に「蚊火」という言葉

 万葉集の和歌に、「蚊火」という言葉が残されている。日本では 蚊帳 かやや、ヨモギの葉、ミカンの皮をいぶして煙で追い払う 蚊遣り火 かやびでしのいできた。ただ、煙たい割に効果は薄かった。

 歴史を変えたのが、夏の風物詩にもなった緑の渦巻きだ。

 後の大日本除虫菊が、欧米でノミの駆除に使われていた除虫菊の種を入手し、花の粉末を練り込んだ「蚊取り線香」を1890年に発明した。有効成分のピレスロイドは、蚊など昆虫の神経をマヒさせる。哺乳類や鳥類は、体内ですぐに分解されるため、ほぼ無害だ。

 棒状で40分ほどで燃え尽きたが、渦巻き型に改良されると6時間以上もつようになった。

 現在は、成分は化学合成されている。複数のメーカーが、微粒子にして即効性を高めたスプレー式、液体にして温めるリキッド式など、手軽で多様な商品を売り出している。

 蚊対策の歴史に詳しい大日本除虫菊の上山久史・取締役相談役は「殺虫力が強い成分は他にもあるが、人体の安全や環境への影響を考えるとピレスロイドより優れた成分はない」と話す。

カンボジアに「強敵」対処へ企業奮闘

 この殺虫剤が効きにくい蚊が出てきた。国立感染症研究所昆虫医科学部の葛西真治部長らは2022年、ピレスロイド系殺虫剤に、通常の蚊の1000倍強い「スーパー耐性蚊」が、ベトナムとカンボジアで生息していることを発見した。

 カンボジアでは、採取された蚊の7割以上が耐性蚊だった。突然変異で耐性を身につけた蚊が生き残り、増えているという。

 どう対処すれば良いのか。岐阜大発のベンチャー、ファイバークレーズは、繊維に毛髪の太さの1万分の1ほどの穴をあけ、忌避剤を染み込ませた製品を開発した。表面に塗るだけの場合と比較し、雨や洗濯で落ちにくい。マレーシアの研究機関と商品化を目指している。

 蚊を覆っている油膜状の成分に着目し、水と油をなじみやすくする「界面活性剤」を吹きかけて飛べないようにする駆除技術も、商品化に向けた動きがある。蚊が皮膚にとまりにくいよう、シリコーンオイルを加工したクリームも開発された。いずれも日本企業が開発している。

 葛西部長は「スーパー耐性蚊には、別の殺虫剤に切り替えるなどの対策が急務だ」と話す。

感染症の媒介者

 蚊は、マラリアやジカ熱などの感染症を媒介する。死者は年78万人で、蛇などを上回り「人間の命を最も多く奪っている生物」とする推計もある。

 世界保健機関(WHO)は7月、今年のデング熱感染者が1000万人を超え、過去最悪だった23年(約650万人)を上回ったと発表。有効な治療薬がなく、死者は6000人を超えている。

 日本も対岸の火事ではない。感染研によると、海外でデング熱に感染し、国内で発症した患者は23年には175人に上り、今年も7月10日までに96人が報告されている。国内に生息するヒトスジシマカも、デング熱を媒介する。14年夏には東京・代々木公園を訪れた人に感染が相次いで確認され、デングウイルスを持つ蚊も公園内で採取された。

 武田薬品工業は重症化などを防ぐワクチンを開発し、日本で使えるよう準備を進めている。タイやインドネシアでは23年に接種が始まっている。

 小原恭子・鹿児島大教授(ウイルス学)は「地球温暖化の影響で、世界的に熱帯感染症のリスクが高まっている。予防と蚊の駆除がますます求められる」と指摘している。

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