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高齢者や障害者ら「災害弱者」の避難課題…受け入れ「全員は難しい」、事前避難は実効性が課題

読売新聞 / 2024年8月10日 22時13分

特別養護老人ホーム「望海の郷」に設置された浮上式の津波救命艇(2018年7月撮影、高知県提供)

 南海トラフ地震の臨時情報「巨大地震注意」が出された対象地域では、支援が必要な高齢者や障害者らを、津波からいかに早く避難させられるかが大きな課題となっている。支援する側の人材確保も難しい中、逃げ遅れを防ぐには、自治体や地域住民らが協力し、支援体制を強化していくことが求められる。(大阪社会部 虎走亮介、大分支局 山口覚智)

南海トラフ「巨大地震注意」

 「南海トラフ地震が起きたらどうなることか。危機感が一気に高まった」

 海沿いにある高知県中土佐町の特別養護老人ホーム「 望海 のぞみの郷」の防災担当職員、清岡幸平さん(39)は、「巨大地震注意」が発表された8日夜の緊迫した状況を振り返った。

 南海トラフ地震が起きれば、高さ10~15メートルの津波が来ると想定されているが、近くに高台はない。入居者68人の多くは車いすを使い、寝たきりの人もいる。清岡さんは9日朝、近隣の高齢者施設に電話し、避難が必要になった場合、入居者の受け入れが可能か尋ねたが、「全員は難しい」との答えだった。

 施設では、万が一に備え、同町から浮上式の「津波救命艇」(定員20人)を7台借り受けている。入居者や職員ら全員を収容でき、漂流しながら救助を待つことができるが、救助まで長引けば、健康を損なう恐れもある。清岡さんは「入居者の受け入れ先の確保について、早急に県や国と協議したい」と危機感を強める。

 南海トラフ地震では、早いところでは地震後数分で津波が到達する。浸水想定域にある高齢者施設では、いかに早く入居者を避難させられるかが重要となる。

 淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は、東日本大震災の事例を踏まえ「高齢者や入院患者らの避難には人手が必要で、職員だけでは間に合わない」と指摘。「日頃から、地元の住民や、近隣の施設と連絡を取り合い、緊急時の協力体制や役割分担を決めておくべきだ」と指摘する。

自分で守る

 在宅の高齢者や障害者らの避難も大きな課題だ。

 自治体は、要支援者の避難方法を事前に決めておく「個別避難計画」を策定することが努力義務となっている。総務省によると、昨年10月時点で約85%の自治体が策定に着手しているが、策定済みは約9%にとどまる。自治体職員の人手不足や、避難を手助けする人の確保が進まないことが、遅れの要因となっている。

 地震時は、支援する人たちの迅速な対応も必要となる。宮崎市島山地区では、8日夕に日向灘で起きた地震後、自治会役員らが高齢者宅を回り、避難経路を確認するよう呼びかけた。会長の あかね 久保 くぼ真由美さん(77)は「『自分の命は自分で守る』という意識を持ってもらうことも重要だ」と語る。

実効性

 南海トラフ地震の臨時情報には、津波避難が間に合わない住民に事前避難を呼びかける「巨大地震警戒」もあるが、どう実効性を持たせるかも課題だ。

 高さ27メートルの津波が想定される東京都新島村は9日午前、支援を必要とする高齢者ら171人のうち、浸水が想定される地区に住む77人を戸別訪問し、事前に避難所を利用できることを伝えたが、希望者はいなかった。村民生課の前田主税課長は「津波が起きてから避難するのは厳しい。事前に避難する人を増やすには、地震に関する情報の出し方も工夫する必要がある」と話す。

 華頂短大の武田康晴教授(社会福祉学)は「臨時情報が発表され、南海トラフ地震の危機が現実味を増した。これを重く受け止め、高齢者施設や病院、自治体などは、職員が手薄になる夜間や、長期休暇の時期といったあらゆる場面を想定し、災害弱者の命と健康を守る避難や支援について見直すべきだ」と指摘する。

避難所の環境整備が不可欠

 高齢者や障害者らの避難生活についても、事前に検討し、備えておく必要がある。

 1月に起きた能登半島地震では、高齢者を中心に、長期の避難生活で持病を悪化させ、亡くなる「災害関連死」が相次いでいる。過酷な避難生活を少しでも快適に過ごせるよう、段ボールベッドや洋式の仮設トイレなどの備えは不可欠だ。

 東日本大震災では、認知症の人の行動を巡って、トラブルになった例があった。障害を抱える人は、不慣れな環境ではパニックに陥りやすいため、心を落ち着かせられる区切られたスペースの確保も重要となる。個室が望ましいが、難しい場合は、テントや段ボールなどで間仕切りを作る。

 また、移動につえが必要な人は通路近く、視覚障害者や高齢で視力が弱っている人は夜間でもトイレに行きやすい場所に、優先的にスペースを確保する。車いす利用者がいる場合は、通路にものを置かないよう、ほかの避難者に呼びかける。

 一方、支援が必要な人は、特別支援学校や高齢者施設などに開設される福祉避難所への移動を希望する場合、できるだけ早く申し出ることが大切だ。

 東北福祉大の都築光一教授(災害福祉)は「支援が必要な人たちは環境の変化で心身の状態を悪化させる可能性がある。避難所で気になることがあれば、遠慮せずに相談し、安心できる環境を整えてもらってほしい」と話している。(東京社会部 野島正徳)

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