17歳の玉井陸斗、飛び込み界100年の苦労報いる「銀」…世界より遅れた練習環境の逆境はね返す
読売新聞 / 2024年8月11日 2時21分
パリオリンピックは10日の男子高飛び込み決勝で、17歳の玉井陸斗(JSS宝塚)が銀メダルに輝いた。飛び込みの日本勢で初めてのメダル獲得。5本目にミスがあったが、最後の6本目を決めた。
日本が最初に飛び込みに参加した1920年のアントワープ大会から、1世紀以上の月日が流れた。17歳の玉井が、先人たちが届かなかったメダルをつかみ取った。
全6本のうち4本目を終えて、前回東京大会覇者の中国選手に肉薄する2位につけた。5本目は、39・10点の失敗ジャンプで3位に転落。最終6本目はひねりを加えた得意技だったが、ミスすれば4位以下で終わる可能性もあった。結果は、この日の自身最高となる99・00点。見事に立て直し、重圧に打ち勝った。
14歳で出場した東京五輪は7位で、この種目の日本勢で21年ぶりの入賞を果たした。2022年の世界選手権で銀メダルに輝き、この3年で身長は約6センチ伸びた。厳しい練習を終えることばかり願った昔と違い、今は周囲が止めても納得するまで飛び続ける。エースの自覚が備わり、馬淵崇英コーチは「普通ではない、完璧を見る世界に入った」と評した。
日本は、世界の中でも環境面で後れを取り、国内の全国大会が競泳の地域大会の隅で行われたこともある。複数の五輪代表を輩出している「JSS宝塚」(兵庫県宝塚市)ですら、この種目と同じ10メートルの飛び込み台はない。プール外の小さなスペースに陸上練習の場所を作り、物置を改装した手作りのジムで体を鍛えてきた。
メダルを量産してきた競泳と違い、関係者の一人は「肩身の狭い思いをしてきた」と言う。ずっと楽しそうに演技した玉井は「楽しい方が自分の気持ちが乗る。無理やりでも、笑顔になろうと思った」。日本飛び込み界の長年の苦労が、ついに報われた。(森井智史)
長い低迷期越え
日本水泳連盟によると、飛び込みの日本勢はアントワープ大会に初出場した後、1936年ベルリン大会で大沢礼子と柴原恒雄が4位とメダルまであと一歩に迫った。だがそこから、米国など強豪国の壁にはね返されて長い低迷期に入る。
メダルどころか入賞さえ遠く、再び世界に迫ったのは実に56年後の92年バルセロナ大会。金戸恵太が男子高飛び込みで8位に入ると、その後、2000年シドニー大会では寺内健が板、高飛び込みの両種目で入賞を果たした。
寺内は長くエースとして日本を引っ張り続け、23年まで現役を続けて43歳で引退。寺内と同じ練習拠点で腕を磨いた玉井が、中国勢などと競い、ついに日本飛び込み界に五輪のメダルをもたらした。(工藤圭太)
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