卓球女子団体、意表突くオーダー機能し白星あと一歩…でも勝てないシンプルな理由[伊藤条太の目]
読売新聞 / 2024年8月11日 8時30分
パリオリンピックの卓球は、競技最終日の10日に女子団体決勝が行われた。中国と対戦した日本は0―3で敗れ、前回の東京五輪に続く銀メダルを獲得した。メダル獲得は2012年ロンドン大会の銀、16年リオデジャネイロの銅と合わせ、4大会連続となった。中国は団体戦が始まった08年北京五輪から5連覇。
[伊藤条太の目]
女子団体決勝で、日本は王者・中国に挑んだが、厚い壁に再び跳ね返された。早田ひなの状態が万全ではなかったことを差し引いても、中国は強すぎた。
中国は世界ランク1~3位
中国のメンバーは世界ランキング1位から3位までの3人なのだから、強いのは当然である。彼女らより強い選手は地上にはいないのだ。団体戦といっても、結局はシングルスとダブルスという個人競技なのだから、何をどう工夫したところで、勝算は20%もなかった。
しかし勝負に絶対はない。日本チームはそのわずかの勝利の可能性を最後まで模索し、ベストを尽くした。
渡辺武弘監督のオーダーには驚かされた。大会前の大方の予想では、エースの早田ひなをシングルスで2回使いたいため、ダブルスは平野美宇、張本美和組で行くというものだった。実際、これまでの大会ではこのペアが起用されてきた。
ところが大会が始まると、張本がまさかの2点使いで、ダブルスは早田、平野組というオーダー。早田のシングルスでの強さよりも、左利きの早田が右利きとダブルスを組むことで、立ち位置が重ならない利点を重視する戦略である。日本は、準決勝のドイツ戦までこのダブルスで勝ち進んだ。
しかしそれは、決勝で対戦する中国を欺くためのフェイクかもしれないと考えられた。日本の目標は最初から中国であり、中国に勝つためにすべての作戦が練られていたはずだからだ。決勝ではダブルスを平野、張本に戻すのではないか。そう考えた人も多かったはずだ。
平野を孫穎莎にぶつける
しかし、決勝のオーダーはいずれでもなかった。平野が2点使いで、ダブルスはまさかの早田、張本組。中国のエース・孫穎莎を倒したことのある平野を第2試合で孫穎莎にぶつけて勝負をかけるオーダーだった。極秘裏にこのダブルスを練習していたとすれば、渡辺監督は相当の策士である。
これが当たり、第1試合のダブルスは、素晴らしいプレーで陳夢、王曼昱組をフルゲーム9-5まで追い詰めた。しかし中国はここからが強く、5点連取で9-10と逆転され、最後は10-12で敗れた。
第2試合の平野は、孫穎莎に対して出足から猛攻を仕掛け7-1まで突き放した。しかし、そこから徐々に追い上げられて逆転され、結局はストレートで敗れた。
第3試合で再び登場した張本は、王曼昱に対してとても16歳とは思えない大打撃戦を展開。第1ゲームを14-12でもぎ取ったが、そこから3ゲーム連取され、日本女子のパリ五輪は終わった。
追い込まれてから強いのは…
これまでもそうだったが、今回も中国は追い込まれてからが恐ろしく強かった。前半に大量にリードされても追いつくし、競り合っても負けない。こうした現象を見れば、中国の強さの秘密があたかも精神力にあるように見え、その対比として日本選手を不甲斐なく感じる人がいるかもしれないが、それは必ずしも当たらない。
卓球では、実力差がある対戦ではこうしたことがよく起こるのだ。当の早田、平野、張本も格下と試合をすれば、大量逆転をしたり競り合いでの勝率が高かったりするはずだ。それは単に実力の表れに過ぎない。
中国はシンプルに強かった。とてつもなく強かった。日本は死力を尽くし、そして敗れた。素晴らしい試合だった。(卓球コラムニスト 伊藤条太)
いとう・じょうた 1964年岩手県生まれ。中学1年から卓球を始め、高校時代に県ベスト8という微妙な戦績を残す。大学卒業後、一般企業に就職するも卓球への情熱やみがたくなぜか卓球本の収集を始める。それがきっかけで2004年より専門誌『卓球王国』でコラムの執筆を開始。2018年からフリーとなりYahoo!ニュースなどで執筆中。著書『ようこそ卓球地獄へ』『卓球語辞典』他。
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