ブレイキン・SHIGEKIX、技術は「最高峰」でも4位…ジャッジには納得できる[七瀬恋彩の目]
読売新聞 / 2024年8月11日 7時56分
パリオリンピックは10日(日本時間11日未明)、新競技・ブレイキン男子の決勝トーナメントが行われ、半井重幸(ダンサー名SHIGEKIX)が4位になった。大能寛飛(ダンサー名HIRO10)は、1次リーグ敗退。
[七瀬恋彩の目]
ブレイキン男子は、金メダル候補の本命が不在だった。パリ大会に出場している選手は世界のトップダンサー、スポーツの大会のみならず、カルチャーの大会でも常に上位を争っている常連たちだ。かかる曲、MCとの相性、音の聞きやすさ……。不確定要素が強いブレイキンでは、大会の勝敗は選手のコンディションや観客、会場も含めた「調子次第」になることが多い。そして、それこそがブレイキンの
SHIGEKIXの勝敗を分けたものは
「調子次第」――という意味では、SHIGEKIX選手は初戦から安定して「調子よく」自分のパフォーマンスを発揮していた。全試合、フリーズやパワームーブを音にきっちりハメた。世界最高峰の技術をいかんなく発揮した。
準決勝。優勝したカナダのフィリップ・キム選手(ダンサー名PHIL WIZARD)との試合は、ラウンドだけ見ると0-3で完敗ではある。だが、技術・完成度はいずれも対戦相手より高い評価を得ている。一方で、オリジナリティーとボキャブラリーでは大きく水をあけられている。
3位決定戦でも同じような傾向が見て取れる。対戦したアメリカのビクトーバーヌーデス・モンタルボ選手(ダンサー名VICTOR)のトラディショナルな動き。例えば、体操選手は足や手がピンと伸びている方が良いとされるが、ブレイキンでは曲がっていたり、少し雑であった方がカッコイイとされる。そうした、ブレイキン「らしさ」を前面に押し出した動き。即興の音楽にのる「遊び感」。ブレイキンの母国代表として見せた、カルチャー全開のダンス、ジャッジをうならせたのは間違いない。技術については、多くのジャッジがSHIGEKIX選手を評価した一方で、オリジナリティーやボキャブラリーではVICTOR選手に軍配が上がった。
ブレイキンのジャッジは相対評価で行われる。そのため、いずれの差も「両者を比べれば」という前提条件がある。その意味で、いずれの試合も甲乙つけがたい内容であったのは間違いない。だが、ジャッジがそれぞれどこを評価して投票したかを見れば、どれも納得のいく内容だった。
ハイライトを作ったHIRO10
HIRO10選手は1次リーグで、銅メダルを獲得するVICTOR選手とSHIGEKIX選手がいたハイレベルなA組に入った。後のことを考えず、持てる技術を全てぶつける戦略は初戦から明らかだった。
大会を通じてハイライトにもなった、1次リーグでのVICTOR選手との一戦。この試合の第2ラウンドで、HIRO10選手にしかできないパワームーブをぶつけ、会場の歓声を一身に浴びた。このラウンドも取れずに終わったが、この結果に観客からブーイングが出るほどの勢いがあった。
この試合でジャッジの大半が、HIRO10選手の方が技術は優れていると評価している。だが、他の部分では大差をつけられており、オリジナリティーは9人のジャッジが2ラウンドとも満票をVICTOR選手に入れている。VICTOR選手のダンスを見ていれば、HIRO10選手の方が技術は高いが、それ以外が及ばない、というジャッジの評価も妥当に思える。だが、それは、あくまで「ハイレベルだった1次リーグA組」で「相対的に比べたら」という話だ。別の組に入っていたら、決勝トーナメントに進んでいた可能性も十分にあった。
スポーツ最高峰の五輪が示した「カルチャー」
ブレイキンが五輪に競技として採用されてから、この競技を「スポーツ」と「カルチャー」に分ける流れがあった。だが、「スポーツの最高峰」といえるオリンピックという舞台で、大きく採点に影響したのは、ブレイキンという文化がはぐくんでいた「カルチャー」からの視点だった。
スポーツになっても失われなかった、ブレイキンのカルチャー。それを、オリンピックという世界最高峰の「祭典」を通じて世界中の人たちがを目撃したはずだ。それが、ブレイキンの未来にポジティブな影響を与えることは間違いない。
プロフィル
七瀬恋彩(ななせ・ここあ)――ダンサー名、COCOA。2003年生まれ東京都出身。ブレイクダンスを主とするプロダンスチーム「コーセー・エイトロックス」に所属し、タレント・女優としても活動。8歳からブレイクダンスを始め、ダンスショーやダンスバトルにて多数の受賞経験を持つ。ダンスと個性的なロングヘアを特徴としたSNSを発信し、総フォロワー数は200万人を超える。
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