日航機墜落事故39年、遺族・日航・上野村が守る御巣鷹の「尾根」…事故の記憶から生まれた交流
読売新聞 / 2024年8月12日 17時45分
乗客乗員520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故から12日で39年。墜落現場となった群馬県上野村の「御巣鷹の尾根」は、村や日本航空が遺族と一体となって整備を続けている。「空の安全」を訴えるだけでなく、ほかの事故に遭った遺族との交流拠点として、記憶の継承を考える場になっている。(デジタル編集部 石原宗明)
全国的に珍しい3者で保全
尾根の登山道は、入り口から頂上付近の慰霊碑「昇魂之碑」まで約800メートルある。
遺族たちは1986年2月、上野村や日航からも資金の提供を受け、公益財団法人「慰霊の園」を3者で一緒に設立。翌年8月には、国有地だった尾根を同村が払い下げを受け、同財団が事故防止の啓発を行う場になるように維持、管理を行うこととした。
尾根には、麓の村道が開通する4~11月に登ることができる。日航も昨年度だけで、新人や管理職などの研修で約120回の慰霊登山を行っている。ほかの航空会社やバス会社などの社員も研修で訪れているほか、災害に遭った遺族たちが集う場にもなっている。
「活動の転換点」の尾根
「尾根は、互いの教訓を生かし、安全への意識を高め合う場になっている」。2011年の東日本大震災の津波で、七十七銀行女川支店(宮城県女川町)に勤務していた長男・健太さん(当時25歳)を亡くした田村孝行さん(63)(同県大崎市)はそう話した。
尾根には、遺族会「8・12連絡会」事務局長の美谷島邦子さん(77)との交流をきっかけに、15年から登っている。登山道には、東京都港区で2006年に発生したシンドラー社製エレベーター事故や、14年の御嶽山噴火などの遺族も訪れ、一緒に巡る中でそれぞれの活動状況を伝え合う。「一年に一度の大切なひととき」という。
長年勤めた会社を早期退職し、いのちの大切さや安全対策の情報発信などを行う一般社団法人「健太いのちの教室」を設立した田村さんは、「慰霊登山などを通じ、つながり合う重要さを学んだ。自分たちの活動の転換点になった」と話す。
「尾根を守り続けることは村民の意思」
登山道は豪雨などで、繰り返し崩れてきたが、上野村がその度に整備を実施。事故当時、村職員で自衛隊の活動支援などを担当した黒沢八郎村長は「尾根を守り続けることは村民の意思で、村の使命と考えている」と話す。
日航には自主的に尾根を訪れて、高齢の遺族が登りやすいよう登山道を整備する社員もいる。「慰霊の園」から尾根の管理人を任されている黒沢完一さん(81)は「一つ一つの作業が丁寧で、事故に向き合い、記憶を受け継ごうとする意思を感じる」という。
遺族会の美谷島さんは「上野村や日航が一緒に尾根を守り続けてくれたことで、多くの人が訪れることができ、空の安全、命を守るための大きな力になっている。行政や加害企業と一体となった記憶の継承の取り組みは全国的に珍しく、今後も積み重ねていきたい」と話している。
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