九十九里から米軍上陸計画、現地の91歳女性「最近までデマかと」…本土決戦なら戦後日本は東西分裂の可能性も
読売新聞 / 2024年8月13日 16時54分
太平洋戦争末期、米軍は日本本土上陸を目指す「ダウンフォール作戦」を立案し、その一環として、九十九里浜などから地上部隊を上陸させる計画を進めていた。当時の様子について本紙に投書を寄せた千葉県旭市の斉藤あさ子さん(91)を訪ね、平和への思いなどを聞いた。
戦時中、旭町(現・旭市)の国民学校に通っていました。九十九里浜は東京を空襲する米軍機の通り道となっており、落ち着かない日々を過ごしました。米軍が浜から上陸する作戦を立てていたとは思いもよりませんでした。
米国および英国に対して戦を宣す――。太平洋戦争開戦の放送を聞いたのは9歳の時でした。町中のラジオから軍艦マーチが流れ、日本軍の連戦連勝を知らせる大本営の発表に大喜びをしていました。校舎にはご真影が掲げられ、私たちはその前を最敬礼して学校に通っていました。
潮目が変わったのは、1944年の夏です。サイパン島やテニアン島など南の島が次々と玉砕し、戦況が悪化し始めました。学校には陸軍の部隊が駐屯し、私たちは近くのお寺で勉強するようになりました。
頻発する空襲
東京大空襲のあった45年3月10日の頃だったと思います。未明に役所のサイレンが鳴り、一家で学校の防空
それから空襲が頻発するようになりました。郵便局員だった姉2人は、真夜中でも職場に向かって建物を守りに行きました。郵便局は電話交換業務を担う大事な施設でした。父を早く亡くした私の家には男手はなく、母は負けじと竹やりとバケツを持って集会所に出向いていきました。
当時12歳の私は飼っていた猫を抱いて、防空壕でみんなの帰りを待っていました。いつかは神風が吹いて、日本が勝つ。そう固く信じていました。
牛車で避難
ある日の夕方、近くの子どもたちと遊んでいたら、兵隊さんから「浜から敵が上陸してくる。海から遠いところに逃げるように」と伝達がありました。
乾パンや金平糖などを詰め込んだ救急袋を背負って、集合場所に行くと牛車が待っていました。見送りにきた姉たちは「今生の別れになる」と涙を流していました。私は言葉も出ず、下を向いていました。
牛車に乗り込み、いざ山の方へ動き出そうとした寸前、兵隊さんが来て「上陸計画は中止になった」と告げました。私はあっけにとられて、そのまま家に帰りました。
まもなく8月15日を迎えました。近所のラジオ店で聞いた玉音放送は雑音がひどく、何を言っているのか分かりませんでした。大人たちが「男はこれから奴隷だ。女は売られる」と動揺し、戦争に負けたことを理解しました。家では夜になっても明かりをつけることはせず、夕飯も食べずに暗闇で泣いていました。
戦後の食糧難は農家だった母の実家に米や野菜を分けてもらって、しのぎました。東京の人は大変だったと思います。リュックに着物や帯などを入れて畑にやってきてはお芋などと物々交換していました。
米軍の上陸作戦は最近までデマだと思っていました。もし戦争が長引き、千葉に上陸してきたら、たくさんの人が命を落としていたに違いありません。戦争は偉い人が決めれば止められます。世界で戦争が続いている今、指導者の勇気ある決断を強く願っています。(聞き手 鳥塚新)
九十九里浜から進軍計画…東京包囲「コロネット作戦」
防衛省の「戦史
関東への上陸作戦は、「コロネット作戦」と呼ばれている。千葉県の九十九里浜や神奈川県の相模湾から同時に上陸して地上戦を展開し、東京を包囲する構想だった。
現実味を帯びる本土決戦に備えて、大本営は九十九里浜などで陣地構築を命じている。ただ物資は十分ではなく、作業は進まなかったという。東城村(現・東庄町)に駐屯していた元兵士は、上陸した米軍に対し、銃先に剣をつけて突撃する命令が下されていたと証言している。
8月に戦争が終結し、作戦が決行されることはなかった。ノンフィクション作家の保阪正康氏は著書で「本土決戦が起きていれば五百万人以上が戦死、戦病死していたのではないか」と指摘し、戦後の日本統治は東西に分裂していたとの見方を示している。
この記事に関連するニュース
-
なぜ日本軍は「神風特攻隊」をつくったのか…終戦翌日に割腹自決した海軍中将が「特攻作戦の父」と呼ばれる背景
プレジデントオンライン / 2024年8月13日 10時15分
-
戦争当初は攻撃目標でなかった首里城は、なぜ狙われたのか…首里城が沖縄戦で焼け落ちるまで「海兵隊による文化財の略奪を防ぐねらいも…」
集英社オンライン / 2024年8月13日 8時0分
-
なぜ沖縄が第二次世界大戦で戦いの最前線になってしまったのか? 本土での日米決戦の時間稼ぎのために沖縄が犠牲になった「吸血ポンプ作戦」の真実
集英社オンライン / 2024年8月11日 8時0分
-
「私の天性が暗愚であったため」…“マレーの英雄”があえて「虜囚の辱め」を受け、自決できない苦しみの中で処刑された理由《山下奉文大将》
文春オンライン / 2024年8月9日 6時0分
-
「一人百殺、これ以外にありません」…米一粒の救援もなかった“玉砕の島”指揮官、最後の壮絶な訓示《栗林忠道中将》
文春オンライン / 2024年8月9日 6時0分
ランキング
-
1目黒区の住宅で男女死亡、住人の親子が熱中症か…室内は扇風機回るもエアコン作動せず
読売新聞 / 2024年8月13日 17時14分
-
2【盆の入り】倒れた墓石に「言葉が出ない…」地震の被害受けた志布志市の墓地では
KYTニュース / 2024年8月13日 12時17分
-
3現場には足跡が…85歳男性 クマに襲われてけが 横手市十文字町の畑
ABS秋田放送 / 2024年8月13日 11時45分
-
4放課後等デイサービスでも約2億円を不正請求 名古屋市が2事業所の指定取り消し 障害者向けグループホームで食材費過大徴収の「恵」
CBCテレビ / 2024年8月13日 12時11分
-
5「反対するといじめられる」「議会に緊張感がなくなる」それでも地方政治から「ボス議員」がいなくならない理由
文春オンライン / 2024年8月13日 11時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)