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女性の姿ないアフガン、遊園地閑散・美容院は地下営業…タリバン実権掌握3年

読売新聞 / 2024年8月14日 7時54分

 アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが実権を掌握してから15日で3年となる。女性の人権侵害などを理由に暫定政権を承認する国はなく、孤立が深まっている。戦争状態から脱して治安は回復したが、制裁と抑圧下にあり、祖国を見限って国外移住に希望をつなぐ人も多い。(カブール 吉形祐司、写真も)

国外移住希望者も

 首都カブールにある遊園地「シティーパーク」は閑散としていた。時折響く歓声が園内にこだまし、入場者の少なさを印象づける。園内の光景は異様だ。観覧車も回転ブランコも無人。そして、女性の姿がない。

 「10年前の開園当初は昼食もとれないほど多くの来園者がいた。過去3年は、ご覧の通りだ。女性の入園が禁止され、家族で入れないからね」。関係者が肩をすくめた。110人いた職員は今、23人だという。

 「たまにしか来ない。家族で一緒に入れないから」

 息子2人にせがまれて訪れた無職の男性(35)が話し始めると、別の男性が近づき会話を遮った。警備担当で「取材には許可が必要」だと言う。外務省発行の取材許可証を示すと写真を撮影し、「これではダメだ。報告しておく」と告げた。無職の男性は「今も以前も、家族で来たことはない。何も変わっていない」と口をつぐんだ。

 タリバンが導入した女性の教育や就業制限などは続き、昨年、禁止された美容院は街角からなくなった。「地下営業」をする美容師4人に取材を試みたが、安全を理由に拒否。1人は「4日前に姉妹4人とともにタリバンに逮捕された」と仲介者が打ち明けた。

 電話で接触したある美容師は「怖い。私を国外に連れ出してほしい。外国でなら、起きたことを全部話すから」と訴えた。地下営業の仕事場で他殺体となって見つかった美容師もいるという。誰の仕業か不明だが、同業者の間では隠れた営業でタリバンともめ事があったとの見方が広がっている。

 カブールの街は、治安悪化の元凶だったタリバンが実権を握ったことで平穏が戻った。タリバンと敵対するイスラム過激派組織「イスラム国」のテロはあるが、標的は限定的だ。市場や商店街は活気づいている。

 しかし、市民は一様に経済的な苦境を口にする。現実は、外見上の街の表情とは違う。

 露天商が集まる中心部のタイマニ・プロジェ通りでスイカを売るアフタブッディンさん(29)は政府の元職員で、タリバンに役所を追われた。銀行に再就職したが、勤務先の支店はタリバンが利子を禁じたため閉鎖され、スイカ売りに転身した。「収入は1日に300アフガニ(約620円)。以前の5分の1で夏だけの仕事だが、他に選択肢がない」と嘆く。

 自営業のカリミさん(38)は過去、米軍の燃料調達に協力していた。「将来に何の保証も安全もない。娘は学校に行くことも許されない」と、米政府が発給する特別移民ビザを申請した。祖国への未練はない。ビザ申請の手続きを終えたのは2022年7月。自宅には、いつでも出発できるようまとめた荷物を置いたまま、米政府からの連絡を待ち続けている。

薬物禁止 依存者を強制排除

 タリバンが実権を掌握した後、劇的に変化したのが違法薬物への対処だ。アヘンやヘロインの原料となるケシの栽培・取引をイスラム法を適用して禁止し、路上にあふれていた薬物依存者を強制排除した。だが、依存者は後を絶たず、問題は根深く残ったままだ。

 「薬物など使用していないぞ。何が問題だ」

 首都カブールにある「国立薬物依存者1000床病院」の受付。息子に連れられた男性が大声で叫ぶ。なだめる職員。息子が持つ検査結果には、覚醒剤の一種メタンフェタミンの欄が「陽性」と印字されていた。

 米軍施設を転用した病院の収容人数は、その名の通り1000人。毎日20~25人の入院と、同じ人数の退院で空き病床を管理する。3病棟に67室があり、治療を受ける患者は薄暗い大部屋のベッドで過ごす。

 45日の治療を終え、退院の日を迎えた大学生シャダブ・ヌーリさん(23)は、合成麻薬MDMAを使用していた。「友人に勧められた。幸せな気分になれた。卒業に影響するため治療を受けた」。入手は簡単で、日本円で約1470円で5グラムが買えたという。

 保健省によると、2015年の統計で薬物依存者は300万人。タリバン暫定政権は22年4月、ケシ栽培や、あらゆる薬物の使用・取引を禁止した。違反者はイスラム法で罰し、カブール市内の路上や橋の下にあふれていた薬物依存者を病院に強制収容した。現在は薬物依存者の姿はない。

 タリバンの元戦闘員で、キューバのグアンタナモ米軍基地に6か月収容されていたアブドゥル・ナシル・ムンカド院長(48)=写真=は、暫定政権の薬物対策に胸を張り、「当初は力で収容したが、今は家族が自発的に連れてくる患者を治療している」と語る。

 しかし、入院患者は後を絶たない。使用薬物も以前はアヘンやメタンフェタミンなどが主流だったが、最近では日本円で1600~2000円を払えば薬局で買える処方薬の乱用被害が広がっている。

 アシフ・ラフマイさん(38)は「医師が出した腹痛の痛み止めの処方箋をコピーして薬局で買い、5年間服用した」という。4人の子供に暴力をふるい、見かねた弟(36)が病院に連れてきた。

 ムンカド院長は「戦争で家族を亡くしたストレスが原因の患者もいる。低収入の若者がイランに働きに出て患者となって帰ってくるのも原因だ」と指摘する。イランで 蔓延 まんえんする薬物は、アフガンが原産とされており、薬物禍がアフガンに逆流する悪循環が続いている。

ケシ栽培95%減 農家不満 国連機関調査…密売 有力者の懐潤う

 国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2023年11月に発表した調査結果によると、タリバン暫定政権の薬物禁止令でケシ栽培は22~23年の1年で95%減少した。一方で、農家の収入も92%減少した。アヘン価格は高騰し、密売ビジネスにかかわるタリバンの一部有力者の懐を潤している。

 調査によると、東部ナンガルハル州や南部カンダハル州などケシの主要産地4州では、小麦など代替作物を導入した結果、農家の収入が10億ドル(約1470億円)減った。農家の不満は高まり、北東部バダフシャン州では今年5~6月、ケシ栽培の禁止に抗議した住民とタリバンが衝突し、死傷者が出た。

 ナンガルハル州の農業男性(53)は「代替作物の種の供給などの支援がない」と訴える。別の農業男性(58)は「タリバンと関係を持つ農家は栽培を続けている」と指摘した。

 タリバン暫定政権のある高官は「複数の有力者が密輸ビジネスを続けている。ケシ栽培が必要で、ヘロイン精製所も持っている」と明かす。密輸先はパキスタンやイランだという。

 UNODCは禁止令の後、アヘンの価格が5倍になったとしている。だが、イラン国境の密売人は本紙に「10倍だ」と指摘した。この人物は「我々のような中小の密売業者は、利益の20~25%の賄賂を払い、10回に5、6回しか成功しない。タリバンの有力者は、大きな契約で安全なルートを確保し、中東経由で欧州に密輸している」と語る。

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