パラ競技「資金難」８割、コロナ禍でスポンサー収入減少・円安…「パリ大会成功が支援のカギ」

　２８日開幕のパリ・パラリンピックを前に、読売新聞が夏季競技団体に２０２１年東京大会時点からのスポンサー収入の増減を尋ねたところ、全２５団体のうち１２団体で増加していたことがわかった。一方で、２０団体が「活動資金が不足している」と回答しており、さらなる選手強化に向けて課題も明らかになった。専門家は「支援の機運が盛り上がるか、パリ大会の成功が試金石となる」と指摘する。

　調査は６月、夏季パラリンピック２２競技を統括する２５団体を対象に、東京大会時点と直近の年間スポンサー収入を尋ね、日本ブラインドマラソン協会を除く２４団体から回答を得た。

　結果によると、スポンサー収入が増加したのは、柔道（７００万円増）や射撃（５５０万円増）などの１２団体。減少したのはフェンシング（１９００万円減）やバレーボール（９６０万円減）などの８団体で、残り４団体は増減がなかった。

　ゴールボールはスポンサーの数が８社増の２３社となり、収入は２０８３万円と３８３万円増えた。ゴールボールは視覚障害者の競技で、攻撃側はゴールに向かって鈴が入ったボールを投げ、守備側は鈴の音を頼りに転がる位置を推測し、寝転んで止める。音が競技のカギになることから、音響関連会社などが新たにスポンサーに名乗り出たという。

　車いすテニスは３社増えて５社となり、収入は５３００万円と２・５倍に増えた。東京大会で国枝慎吾さん（４０）が男子シングルス金に輝き、国民栄誉賞を受賞したことに加え、パリ大会で金メダルが有力視される小田 凱人 （ときと）選手（１８）の台頭で注目が集まったことが要因とみられる。しかし、日本車いすテニス協会の担当者は「トップ選手だけでなく、幅広く選手を強化するにはより多くの支援が必要だ」と明かす。

　一方、水泳（身体障害）は８３００万円から４３００万円にほぼ半減した。東京大会では全盲の木村敬一選手（３３）の金メダルなど多くのメダルを獲得したが、大会後、コロナ禍で経営に打撃を受けた航空会社など６社が撤退した。

　この影響で、国際大会の事前合宿を約１０日間から１週間ほどに短縮。メンタルや栄養面をサポートするトレーナーが同行できず、日本からオンラインでアドバイスを送るなどの対応を迫られているという。日本パラ水泳連盟の桜井誠一参与は、「減額が続けば、世界の舞台で好成績を出せなくなる」と危機感をあらわにする。

　卓球（知的障害）では、飛行機代や宿泊代が重い負担となり、国際大会の出場を断念する選手もいるという。最近の円安も負担増に拍車をかけており、日本知的障がい者卓球連盟の野村春衣事務局長は「国際大会で成績を残さなければ、パラリンピックに出場することもできなくなる」と訴える。

　スポンサー側の台所事情も苦しい。運送業などの長時間労働が規制されたことで生じる「２０２４年問題」の影響で業績悪化が見込まれるとして、支援額を減額した企業もあったという。スポンサーから撤退したある企業の担当者は、「多様性社会の実現を後押ししようと支援したが、露出が少ない競技では、会社の取り組みを知ってもらう点で、期待した効果が得られなかった」と打ち明ける。

　障害者スポーツに詳しい日本福祉大の藤田紀昭教授は、「パラスポーツは観戦者が少なく、スポンサーのイメージアップ効果に限界がある。競技団体は競技の魅力や支援の意義を企業側に示す必要がある」と指摘する。

施設利用を断られるケースも

　調査では練習施設の確保のしやすさについても尋ねた。東京大会以降、１２団体が「容易になった」と回答する一方、「変わらない」が１０団体、「困難になった」が２団体あった。

　車いすラグビーは東京大会で２大会連続の銅メダルを獲得したが、大会後も施設側から使用を断られることが多い。選手はボールがすべらないよう手に松ヤニをつけ、車いすで急停止、急旋回するため、松ヤニや黒いタイヤ痕が床面につくことがある。スタッフが専用の洗剤で汚れを落としているが、日本車いすラグビー連盟の青田竜之介事業企画委員長は「説明しても理解してもらえない」とこぼす。

　また、入場料を取るイベントに会場使用料を高く設定する施設は、観戦無料のパラ競技に貸し出さないこともあるという。ある団体の担当者は「施設側に東京大会のレガシーが根付いたとは言えない」と訴える。