1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. 経済

「買い物の経験値上がっている訪日客、利便性を高め品ぞろえの充実が不可欠」…J・フロントリテイリングの小野圭一社長

読売新聞 / 2024年8月16日 12時12分

J・フロントリテイリングの小野社長(東京都中央区で)

 百貨店業界は、経済活動の正常化と円安による訪日消費の拡大で、コロナ禍前を上回る売り上げを記録している。大丸松坂屋百貨店を傘下に置くJ・フロントリテイリングで最年少の社長に就任した小野圭一氏に戦略を聞いた。(聞き手・岡田実優)

円安の追い風で今の状況、備えが必要

 ――業績が好調だ。

 「円安の影響は極端に大きいが、訪日客が想定以上に増えている。国内の富裕層は、円安だと海外に出かけて消費をしようという意欲が薄れて、消費に回っている。ただ、社内で言い続けているのは、わが社の成果の数倍の追い風によって今の状況が作られているということだ。もろ手を挙げてとてもいいとは、決して言えない。

 政府は、観光立国を目指しており、訪日消費は右肩上がりが続く。上がって下がっての波を繰り返しながら増えていく。円安の波は極端に大きいので、どこかで揺り戻しはある。備えが必要だ」

 ――訪日客向けの取り組みは。

 「店内で行ったアンケートによれば、日本に6回以上来たことがあるという人もいる。日本で買い物をする経験値が上がっており、これを買うならば、この店だとか、店を選ぶ選択肢がはっきりしてくる。買い物の利便性を高めたり、品ぞろえを充実させたりということは当然、必要になる。

 訪日消費は不確実性が高い。いかに確実に、自分たちで管理できる市場に変えられるかというのが課題だ。一つは、お客様の会員を増やすことで、これまでは能動的にやってこなかった。大丸心斎橋店(大阪市)のように訪日消費が多い店では、中国語が話せる販売員とお客様が仲良くなり、次に来た時もその人から買いたいといったようなことが起きている。海外向け外商みたいなことを目指したい。

 もう一つは、海外の商業施設と連携した相互送客だ。先方のお客様が日本に来た時に、Jフロントのグループで買い物をしたら、特典が受けられる。逆もしかり。タイの商業施設と組み、現地の富裕層が訪日した際、大丸松坂屋で利用できるクーポンを発行している。こうした取り組みを、ほかのアジア圏でも拡大していく。この二つを進めたい」

富裕層相手だけでなく、様々な価格帯

 ――国内消費について。

 「中間層の方々が、行き過ぎた円安で物価高に苦しんでいる。中期経営計画では、(自身のこだわりや価値観を満たし、高質で心が高揚する消費を好む)『高質・高揚消費層』をターゲットにすることを掲げた。単にお金を持っている人だけを相手にするのではなく、所得に関わらず、好きなことに、とことんお金をかけるといったスタイルは増えている。

 ラグジュアリーブランドは、富裕層だけを相手にしているのではない。様々な価格帯の衣料品や雑貨もそろえている。パルコは、エンターテインメントやサブカルチャーの要素もある」

 ――若年層の顧客開拓について。

 「先日、ロンドンとパリに行った。ラグジュアリーブランドも(1990年代半ば以降に生まれた)Z世代を意識した商品構成や展示になっていた。欧州でも消費のけん引役がZ世代、広く言えば、(80年代前半に生まれた層を含む)MZ世代に変わっている。

 大丸札幌店では、一通りラグジュアリーブランドをそろえた。品ぞろえで若年の富裕層を取り込む。外商のお客様も30歳代の若い層が増えている。オンラインで入会してもらう仕組みも整えた。eスポーツ事業に参入したことで、アプローチの可能性も広がっている」

 ――地方の戦略は。

 「訪日客は地方にも流れているが、観光はしても、買い物にはつながっていない。地方の郊外店は苦しい状況にある。人口も減っており、じり貧だ。

 グループとして、コンテンツを増やすことを戦略にしている。百貨店はこれまで、商品を仕入れて販売し、テナントを誘致する仲介業を営んできた。(商品を共同開発して)お客様に直接モノを売っていけば、ほかの百貨店や海外で扱うこともできる。コンテンツは、間違いなくローカルにある。地方郊外店は、地域で埋もれているコンテンツを発掘し、買ってくる役割が重要になってくると思う。

 たとえば、高知大丸が発掘したお茶を大丸東京店で売れば、幾分かは高知大丸の成績になるような管理会計ができれば、改革も進む。ローカルに店を持っていることが逆に生きてくる。

 3月に日本政策投資銀行と事業承継ファンドを立ち上げた。困っている企業に出資して、ファンドの力を借りて支援する。これもローカルを意識したものだ」

来店してもらう機仕掛け作り

 ――コロナ禍を経て、来店客は減った。

 「人流は変わり、ニューノーマルになった。電車でオフィスに行って、帰りに百貨店に寄るということでは成立しない。単価は上がっているが、入店客数はコロナ禍前の1割減だ。これは、一時的なものではないと思う。

 でも、リモートワークが当たり前の時代にはならなかった。(目的地を意味する)ディスティネーションという言葉が大事だと思う。『目的来店』を仕掛けている。ついでの来店ではなくて、わざわざそこに行く環境を作る。客数が減った商売が当たり前ということではなく、来店してもらう仕掛けを作り、客数を増やさないといけない」

 ――不動産の有効活用について。

 「私たちのグループは札幌、首都圏、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡の7エリアを重点エリアに位置づけ、優良な不動産を持っている。街の発展に貢献し、われわれも成長する、地域共栄を目指している。まずは、名古屋で2026年に新しい商業施設を作り、30年頃には福岡で複合商業施設を開発する予定だ。大阪の心斎橋でも考えている」

◆小野圭一氏(おの・けいいち) 1998年関西学院大経卒、大丸(現・大丸松坂屋百貨店)入社。執行役常務などを経て、2024年3月、最年少で社長に就任。将棋が好きで、木村一基九段のファン。木村九段の扇子に 揮毫 きごうされている「百折 不撓 ふとう」を座右の銘としている。何度失敗しても志をまげないという意味がある。兵庫県出身。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください