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「脱炭素化へ電炉導入、技術開発だけの問題ではない」「USスチール買収では一貫して対話の機会望んでいる」…日本製鉄・今井正社長

読売新聞 / 2024年8月16日 13時30分

電磁鋼板を積層させたモーター部品を持つ日本製鉄の今井社長(東京都千代田区で)=高橋美帆撮影

 鉄鋼業は産業界で二酸化炭素(CO2)の排出量が最も多い。最大手の日本製鉄は、電気炉や水素を使った先進技術の開発で脱炭素を目指す。海外の成長市場に経営資源を集中させる方針を掲げ、米USスチールの買収計画を進めている。今井正社長に話を聞いた。(聞き手・田中俊資)

投資回収の予見性など、三つの課題

 ――CO2の排出を大幅に減らせる電炉の導入を検討している。

 「技術開発をすれば、実現できるほど、簡単な問題ではない。三つの課題があると思っている。実証された脱炭素化の技術がないので、まずは開発だ。次に、製鉄所の資本の半分を作り替えるような大規模な投資判断をするので、投資回収の予見性もハードルとなる。三つ目は、電炉に使う電力や圧延工程などに必要な燃料を始めとしたエネルギーの供給網、産業インフラを整えること。これらをクリアした時に初めて脱炭素化は前に進む。

 電炉について言えば、製鉄所を広畑(兵庫県姫路市)と八幡(北九州市)に限定することで、生産する製品が決まる。製造が可能かどうか、検討を進めており、技術的にはほぼめどがついた。

 投資をいかに乗り越えるかについては、政府にも理解頂いており、GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債を財源とした支援策や税制的な優遇措置を用意してもらった。国の支援を前提に具体的な検討をしている。どのくらい投資し、どれくらいの規模で生産プロセスを転換すれば、脱炭素はどこまで進むのか。インフラ整備は、あまり大きな投資にならない範囲で計画を作っている。

 導入が実現すれば、電炉だけを鉄源とする一貫製鉄所となり、最高級の電磁鋼板に象徴されるような高級鋼材を作りたい。世界のどこの製鉄所をみても例はなく、ぜひやりたいと思っている。

 CO2排出削減による『グリーンスチール』を大量に生産できるようになる。同じ品質でコストがかかる製品にすべて替えたいと言ってくれる顧客はまだ見つかっていない。需要が多い土木・建築や、自動車メーカーに使ってもらわないと、需要は積み上がらない。

 地球温暖化解決のために、素材の負担増は避けて通れない。社会全体の認識が広がっていく必要がある。電炉の完成までには4~5年がかかる。5年前、鉄鋼業界の脱炭素化の実現は100年先だと言われてきた。この間に議論は大きく進み、5年後の世の中も変わると思う。そこをどう読むか。とても難しいが、前に進んでいくリスクはあっても、立ち止まるリスクの方が大きいと思っている」

論理的には、USWが断る理由はない

 ――USスチールの買収は、全米鉄鋼労働組合(USW)が反対している。

 「現在、最も繊細な問題なので、赤裸々に話ができない。我々はUSスチールが、USWと合意した労働協約を尊重し、それを上回る14億ドル(2000億円)の追加投資を提示している。論理的に考えれば、USWが我々の提案を断る理由はないはずだ。我々は一貫して対話の機会を望んでおり、常にドアは開けてある。

 一方で、外国資本なので、米国内には様々な意見がある。大統領選もあり、取り巻く利害関係者は多い。そうした方々に、買収が広くUSスチールだけでなく、米国経済や産業界にプラスであることを理解してもらいたい。

 交渉を代表する森高弘副会長兼副社長が現地に足しげく通い、USスチールの社員や地元経済に関係する人たち、政治家、ジャーナリストに向けた説明会や意見を聞く場を設けており、少しずつ浸透してきた。

 我々は、決して米国社会から警戒されるような取引は提案していない。USスチールを通じて、米国の鉄鋼業界を強化するとともに産業を強くし、国益にもかなうということはわかってもらえると思う。社会に共通認識が浸透すれば、USWも反対するのが難しくなり、対話に向き合ってくれると思う」

 ――中国の宝山鋼鉄と自動車向け合弁事業を解消した。

 「合併契約が区切りを迎え、2年ほど前から話し合いをしてきて、結論にいたった。かつては中国で品質の高い自動車用鋼板が手に入らなかった。我々が技術を提供して宝山と合弁を作り、中国の自動車メーカー向けに製品を生産する必要があった。20年がたち、我々しかできなかった自動車用鋼板も、技術力をつけた中国メーカーが生産できるようになり、歴史的な役割を終えた。投入する資源に対するリターンを考えた結果、新たに事業性を見いだすことができなかった。

 宝山鋼鉄に関しては、上海での製鉄所建設への協力以来、先輩方が中国鉄鋼業の近代化に大きな貢献をしてきた。すばらしいことだと思う。合弁を解消することに一抹の寂しさはあるが、時代の流れである。一つの節目だろうと感じる」

 ――円安が事業に与える影響は。

 「輸出市況が軟化しており、今は円安の方がデメリットは多い。ただ、我々の事業構造は為替の影響を受けにくい。円安によって原燃料の輸入コストはかさむが、海外事業の利益が円換算で膨らむためだ。だが、現在の水準は円安に振れすぎていると思う(取材時は1ドル=155円)」

◆今井正氏(いまい・ただし) 1988年東大院修了、新日本製鉄(現日本製鉄)入社。副社長を経て、2024年4月から社長兼最高執行責任者(COO)。旧新日鉄出身で初めての技術畑を歩んだ社長で、名古屋製鉄所の所長など、生産現場での経験が豊富にある。腰を痛めてゴルフができなくなったことを機に、茶道教室に通い始めた。岡山県出身。

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