1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「墓じまい」どう思いますか?

読売新聞 / 2024年8月17日 8時41分

[The論点]

 少子高齢化が進み、多くの人がお墓を巡る問題に直面しています。「終活」という言葉がすっかり浸透するなか、最近は墓石のある墓を撤去する「墓じまい」の動きも広がっています。皆さんはお墓のことをどう考えていますか。

[A論]先祖代々守るもの…家族つなげる役割

 墓は単に遺骨の安置先ではなく、残された人が死者と向き合う場所です。「墓石の前に立つと、生前の父の姿を思い出す。墓に眠る父に対し、家族や仕事のことを相談することもある」。そう話すのは、山梨県富士吉田市の会社経営、渡辺新吾さん(65)です。

 渡辺さんは1998年3月に父・貞美さん(当時70歳)を亡くしました。墓は自宅から徒歩約5分の距離にある同市の大正寺にあります。祖父母ら先祖たちの遺骨も埋蔵されており、江戸時代から6代にわたって受け継いできました。

 8月のお盆の前には毎年、親族とともに墓の隅々まで草むしりを行い、墓石をきれいに拭き上げています。渡辺さんは「今の自分があるのは、先祖のおかげ。これからも墓を守っていきたい」と話しています。

 渡辺さんと同様、大正寺に先祖の墓を持つ同市の会社経営、宮下成一さん(65)は親族の接点を維持するためにも、子どもや孫が帰省して墓参りをする風習は残していくべきだと考えています。「墓があることで、親族が集まる。墓は家族をつなげる役割もある」と話します。

 厚生労働省の2022年度の統計によると、墓地は全国に87万5030か所あります。自治体や宗教法人の墓地は1割未満にすぎず、8割以上は村落などで個人が管理している墓地です。

 家ごとに区画された墓地を設ける風習は江戸時代に始まり、この頃から武家などの上流階級だけでなく、裕福な庶民も墓石を置くようになりました。

 家名を刻んだ墓は、1898年施行の明治民法で「家」の枠組みが定められてから広がったと言われています。埋葬方法は土葬が主流でしたが、大正時代以降、場所を取らない火葬に移行していきました。

 墓石は長らく縦長型が主流でしたが、近年は欧米などで見られる横型の墓石が増えています。

 墓石業者で作る「全国優良石材店の会」(東京)が昨年、墓の購入者にアンケート調査したところ、横型の「シンプルな洋型」が52%と最も多く、縦型の「伝統的な和型」は29%でした。家名の代わりに「ありがとう」や「安らかに」などの言葉や「愛」や「和」といった文字を彫った墓石も増えるなど、デザインや石の種類も多様化しています。

 葬送や墓制に詳しい茨城キリスト教大学の森謙二名誉教授(76)は「墓は死者の尊厳を保つ場所でもあり、生まれ育った土地で静かに眠りたいと思う人も多いでしょう。死者の生前の意思が尊重されるのが望ましいです」と話しています。

[B論]維持する負担重い…合祀や樹木葬に

 近年増えているのが、「墓じまい」をして、遺骨を別の場所に移す「改葬」です。厚生労働省の統計によると、改葬は2022年度に15万1076件に上り、12年度(7万9749件)の2倍近くになっています。

 改葬先の一つが、遺骨を屋内に収蔵する「納骨堂」です。東京都世田谷区の男性(70)は、出生地の静岡県西伊豆町にある先祖の墓を墓じまいし、 位牌 いはいを港区の実相寺が運営する納骨堂に移しました。自分が亡くなれば、遺骨を収蔵してもらう考えです。

 毎年、お盆に帰省して墓参りをしてきましたが、その時期は幹線道路が渋滞し、地元に戻るのが一苦労だったそうです。男性は「娘や孫に大変な思いをさせたくなかった。納骨堂であれば、都内に住む子どもたちも来やすい」と話します。

 11年12月に開設された実相寺の納骨堂は個人や夫婦、家族用などがあり、価格も24万~600万円と様々です。約600基のうち半数ほどが契約済みで、寺の一般墓より人気だそうです。

 「墓が遠方にある。子どもに親戚付き合いなどの負担をかけたくないという理由が多い。天候に関係なく墓参でき、手入れの必要がない利点もあります」。実相寺の岩田貴智さん(52)はそう話しています。

 改葬の仕方も様々です。葬祭関連サービスを手がける「鎌倉新書」(東京)が今年1月、改葬した人らを対象にした調査では、多くの人の骨を一緒に埋葬する「 合祀 ごうし墓・合葬墓」が31%と最多で、樹木や花壇などを墓標にする「樹木葬」が23%で続きました。パソコンやスマートフォンで墓参する「メタバース霊園」や、遺骨を宇宙に送る「宇宙葬」も登場しています。

 墓じまいの増加には家族構成や人々の意識の変化が影響しています。「シニア生活文化研究所」(東京)の小谷みどり代表理事(55)は「都市部への人口流出や核家族化で墓を継ぐ人がいなくなったことが大きい」と指摘します。その上で「価値観が多様化し、故人と向き合う場所が、従来の墓である必要はないとの考えも広がった」と分析しています。

 墓じまいをする時には注意も必要です。国民生活センターには毎年、墓に関する相談が1000件前後寄せられています。目立つのが、寺に墓じまいを申し出て 檀家 だんかを離れる際、「離檀料」として高額な料金を請求される事例です。離檀料は慣習的なお布施で、法的な規定はありません。同センターは「墓じまいの計画について、早いうちに寺と話し合いを持ってほしい」と呼びかけています。

「無縁墓」の対策必要

 墓を巡っては、管理する子供や親族がおらず、放置された「無縁墓」の扱いが課題となっています。

 総務省が昨年9月に発表した調査では、公営の墓地や納骨堂を持つと回答した765市町村のうち、約6割にあたる445市町村が「無縁墳墓がある」としました。自治体が管理する墓地は一部のため、実際はもっと多いとみられます。

 墓園事業者らで作る「全日本墓園協会」(東京)の横田睦専務理事(59)は、「無縁墓を放置すれば墓石が倒れたり雑草が生えたりして、他の参拝者や周辺住民に迷惑をかけかねない。地域の共同体など、墓を管理する担い手を広げる必要がある」と指摘します。

 一部の自治体では公営の合葬墓に遺骨を移したり、無縁墓になる前に墓じまいする改葬費用を免除したりする対策が進んでいます。死後の不安を解消する取り組みも行われています。神奈川県横須賀市では2015年度から、身寄りのない独居高齢者らを対象に葬儀などの相談を受け付けています。希望者は業者の紹介を受け、生前に葬儀や墓の手配を済ませられます。

 登録者は累計で約150人に上り、このうち半数ほどが既に亡くなりました。多くは永代供養の合葬墓に納骨されたそうです。市は18年度から全ての市民を対象に、家族の緊急連絡先や墓の所在地などを登録できる事業も始めています。

 横須賀市終活支援センターの北見万幸・特別福祉専門官(66)は「自治体は相談窓口を整備し、頼れる人がいない高齢者を支えていく必要がある」と話しています。

(社会部 井上宗典、礒村遼平)

[情報的健康キーワード]アドフラウド

 インターネットでは、様々なサイトやSNSに広告が掲載されています。多くの人がネットを利用するようになり、国内のネット広告費は増え続けています。

 企業などが支払う広告費はプラットフォーム(PF)事業者を経由し、その広告が掲載されたサイトやSNS上で情報発信している人に渡ります。金額は、ネット利用者のスマホやパソコンの画面に広告が表示された回数や、利用者が広告をクリックした数に応じて決まります。

 近年、このネット広告費を詐取しようとする犯罪者が、自動プログラムを使って表示回数やクリック数を機械的に水増しし、広告費をだまし取る「アドフラウド」と呼ばれる手口が問題視されています。

 広告を掲載するPF事業者がアドフラウド対策を強化するとともに、広告主自身が、自らの広告が適切に運用されているか確認することが求められています。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください