南海トラフ初の臨時情報、それなりに落ち着いた対応だった…福和伸夫・名古屋大学名誉教授(地震工学)
読売新聞 / 2024年8月15日 21時11分
南海トラフで巨大地震が発生する可能性が高まったとして発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」。2019年に政府が運用を開始してから初めての発表となった。制度設計に携わった専門家はこの1週間をどう見たのか。福和伸夫・名古屋大名誉教授に振り返ってもらった。(聞き手 科学部・鬼頭朋子)
■1週間を終えて
――臨時情報による特別な注意の呼びかけが、15日に終了した。
地震への備えに「終了」や「解除」はなく、危険は去っていない。情報提供の期間を1週間に設定したのは、避難などの特別な対応を社会が許容できるのは1週間程度、というアンケート調査結果に基づいた判断だった。
むしろ、次の南海トラフ地震までの残り時間はどんどん減っている、と考えたほうがいい。震源域に近い地域に住んでいる方は、これからも注意深く過ごす必要がある。
――日向灘を震源とする地震は、南海トラフ地震の前兆になるのか。
日向灘周辺では、過去にもマグニチュード(M)7級の地震が10~20年に1回程度のペースで起きているが、その1週間後までに南海トラフ地震が起きた事例は確認されていない。
ただ、日向灘で1941年に発生した地震(M7・2)の3年後に、昭和東南海地震(M7・9)、その2年後には昭和南海地震(M8・0)が発生している。プレート境界にひずみがたまると、その周辺で地震が起きやすくなる。今回、日向灘でM7・1の地震が起きたということは、やはり注意する必要がある。
■国民の反応をどう見た
―――初めての「臨時情報」への国民の対応は、想定通りだったか。
認知度が低い中ではあったが、それなりに落ち着いた対応だったのではないか。旅行のキャンセルや海水浴場の閉鎖など、多少行き過ぎかなと感じた動きもあった。一部の海水浴場は、避難施設を設置した上で臨時情報の後も運営を継続していた。臨時情報が出た時の対応をあらかじめ決めておくなど準備しておけば、日常的な運営を続けることも可能だったのではないか。
――旅行や帰省のキャンセルは、制度設計を担った専門家の想定とは異なる動きだったのか。
自分の周辺の防災対策を見直してほしい、というのが一番重要なことだった。巨大地震注意の対象地域の自治体や関係者が、「対策は十分で、旅行に来てもらっても安心だ」と情報発信ができていれば、ここまでキャンセルは増えなかったのではないか。
――今後はどんな対策をすべきか。
古い家屋に住んでいる場合は、耐震診断だけは絶対に受けてほしい。寝室の家具は必ず固定してもらいたい。ハザードマップを確認して、逃げる場所と経路を複数調べておくと、ずいぶん安心だ。海水浴に行く場合は、地震が起きたらどうやって逃げるのか確認してほしい。
非常時用品を入れた袋は、押し入れなどにしまうのではなく、玄関などすぐに取り出せる場所に置いてほしい。
寝る場所に置くべきなのは、スリッパだ。地震で物が散乱した時に、足のけがをしないようにする必要がある。
将来来る地震の被害を減らし、1人でも多くの命が守れるようにすることが重要だ。臨時情報はほとんどの場合外れる。それでも、この情報をきっかけに、対策の重要性に気がついててもらいたい。
■今後、どうすれば
――今後、臨時情報はどの程度の頻度で出るか。
南海トラフの想定震源域で、これまでに発生した地震の頻度が参考になる。日向灘では、臨時情報発表の検討対象となる、M6・8以上の地震が10~20年に一度くらいの頻度で起きている。前回の南海トラフ地震以降では、紀伊半島沖でも発生している。
――南海トラフ地震はいつ起きるのか。
前回発生してから、既に80年経っていて、地震は起きやすい状態だ。日本列島の南側にあるフィリピン海プレートが、年に5センチぐらいずつ陸のプレートの下に潜り込んでおり、既にもう数メートル分のひずみがたまっている。まだ数十年間耐えるか、早めに地震が起きるかは、現在の科学技術では明言できない。
――地震の予知は、今後も難しいのか。
まだ程遠い状況だが、プレートのどこにひずみがたまってるか、調べることができるようになってきた。海底には、地殻変動をモニタリングするシステムが配置されており、衛星観測システムでも観測している。大規模地震に関連している可能性のある「ゆっくりすべり」という現象を確認することもできるようになった。ただ、これらのデータに基づいて南海トラフ地震を予知するには、克服すべき課題が多い。将来、予知できるよう、今の世代が観測データを蓄積する必要がある。
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