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移住後の定住促進へ「集落の教科書」作成…慣習・ルール明文化で、理想と現実のギャップ埋める

読売新聞 / 2024年8月17日 9時57分

浜益区を訪れた学生らに「集落の教科書」で地域の歴史や食文化を説明する多賀谷さん(右)(北海道石狩市で)=原中直樹撮影

 田舎暮らしに憧れて移住した人が理想と現実のギャップに悩まないよう、地域の慣習やルールを明文化するケースが増えている。人口減に伴い各自治体は受け入れ策を競うが、移住しても土地になじめず、出て行く人も少なくない。都市部とは異なる地域の実情を事前に知ってもらうことで、定住につなげる狙いがある。(北海道支社 宮下悠樹)

 「人付き合いは大事にする」「便利を求めすぎない」――。北海道石狩市の日本海沿いで1000人余りが暮らす 浜益 はまます区を紹介した「集落の教科書」(73ページ)には、ごみ出しのルールや交通事情、飲食店などの基本情報に加え、生活する上での心構えなどが掲載されている。「うわさは割と早く広まる」「人が集まったら酒が入るのは当たり前」といった住民の気質にも触れている。

 教科書は2年前、同地区の活性化に取り組むNPO法人「エゾロック」(札幌市)が、地域の高齢者ら約30人から聞き取りをしてまとめた。同法人の水谷あゆみさん(28)は「自治体の冊子は良い面を強調しがち。ありのままを伝えることを意識した」と説明する。

 昨年4月に隣の札幌市から移り住んだ女性(24)は「移住後の生活をイメージできた。地域に溶け込む上で、地元の歴史や行事、食文化を知ることができたのも良かった」と話す。現在は市の地域おこし協力隊員を務めており、外部の人に地域を紹介する際にも役立っているという。

 こうしたガイド本のモデルとなっているのが、京都府南丹市のNPO法人「テダス」が2015年に監修した同市日吉町 世木 せき地区の教科書だ。同法人は各地で教科書の作成を支援しており、これまでに全国20か所以上の自治会や地域団体などで作られているという。

 コロナ禍を契機に地方への移住の関心は高まっており、NPO法人「ふるさと回帰支援センター」に昨年寄せられた移住の相談件数は5万9276件で、過去最多を更新した。

 ただ、すべてが定住に結びついているわけではない。鳥取県が19年から毎年行っている調査では、移住から5年間、同じ場所に住んでいる人の割合は65~75%で推移。同県琴浦町の担当者は「区費の使い道に納得できないと出て行く人もいる。事前に地域をよく知ってから来てもらうほうが、移住者もなじみやすい」と話す。

 一方、地域の慣習やルールを明文化する際は、誤解を与えないよう注意することも必要だ。福井県池田町が昨年、移住希望者向けの心得を広報誌に掲載した際、「都会風を吹かさないよう心掛けてください」などの表現に批判が寄せられた。

 鳥取大の筒井一伸教授(農村地理学)は「地域だけに伝わる暗黙の了解を可視化し、分かりやすくする意義は大きい。内容が偏らないよう、幅広く住民から聞き取ってまとめることが重要だ」と指摘している。

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