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安部公房に「娯楽にしてくれ」と託された映画「箱男」公開へ…石井岳龍監督、構想から30年超の宿願

読売新聞 / 2024年8月17日 13時28分

「箱男」の原作本と、箱男がかぶる段ボール箱のミニチュアを手にする石井監督=和田康司撮影

 石井岳龍監督が30年以上前から映画化を構想、27年前の製作頓挫など 紆余 うよ曲折を経て完成させた「箱男」が23日に公開される。主演は永瀬正敏。原作は今年生誕100年の作家、安部公房(1924~93年)が73年に発表した同名小説だ。段ボール箱をすっぽりかぶって一方的に世界をのぞく箱男という存在を通し、人間と社会を照らし出す。(編集委員 恩田泰子)

 永瀬が演じるカメラマンの「わたし」は、何にも帰属しない箱男として生きることにした男。箱をかぶって匿名性を獲得し、解き放たれたはずだったが……。「わたし」の実存的格闘が、シュールなアクション、スリリングなギャグとともに広がっていく。永瀬、佐藤浩市、浅野忠信、白本彩奈が演じる鮮烈なキャラクターが心に焼き付く。

 「27年前のものは全編娯楽みたいな感じでしたが、今回はかなり原作に近い要素と娯楽的要素、それから私が考える映画の面白さをものすごく多面性をもって入れている」と石井監督は言う。

 映画化を期して安部と会ったのは32年前。「娯楽にしてくれ」との言葉を託された。前に監督した「逆噴射家族」と「ノイバウテン 半分人間」を作家は対面前に鑑賞し、気に入ってくれていたという。

 97年には永瀬と佐藤を主要キャストに日独合作としての製作が決定したが、ドイツでのクランクイン前日、日本側の製作資金の問題で中止に。だが監督は諦めず、今回、新たな脚本と製作体制で宿願を果たした。「これだけは諦めるわけにはいかなかった。『箱男』は自画像だと思ったんです。自分ということだけじゃなく、自分を取り巻く社会、僕らが陥っている状態、問題の根源を突きつけてくる」

 一方的に世界をのぞく箱男のありようは、スマートフォンをのぞきこむ今の私たちにも重なる。その共振感覚は映像のライブ感、俳優たちの肉体の実感によって増幅される。「安部さんは奇想天外なアイデアを非常に生理的に表現される。においとか、触覚とか、恐らくものすごい時間をかけてリアリティーを突き詰めてある。この映画の根本にもそういうエッセンスが表現されていなければ、と思った」

 石井監督にとって一つ謎だったのは、なぜ作家は「娯楽にしてくれ」と言ったのか。ただ、安部が最後に完成させた長編「カンガルー・ノート」を読み「何か、解けた」という。「驚きました。全体のエンターテインメント性、コミック、ギャグ性。すごくスピード感があり、死と戯れているような。それで思い出したんです。『君は勢いあるね』といったことを言われて。こういうことだったのかと」

 同作では主人公の 冥府 めいふ巡りの果てに、入れ子状に続く箱男のイメージが現れる。「私でよかったのか、『娯楽』ってこれでよかったんだろうかという思いはずっとありましたが、何か少し軽くなった。『私ごときのへっぽこな』という気持ちは今でもあるんですけれど」

 両者の世界観、宇宙観の共振を、観客は、映画「箱男」の中にきっと見いだす。

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