同期生100人、9割が戦死…通信員として輸送機で1700時間の飛行「生死は紙一重」
読売新聞 / 2024年8月18日 5時0分
[100歳語る 戦後79年]<中>
離陸したばかりだった友軍の一番機が炎を噴き出して落ちていく。上空には米軍の戦闘機が見えた。
戦時中、連合艦隊の拠点が置かれたトラック諸島(現ミクロネシア連邦チューク州)の飛行場。一番機が撃墜されたわずか10秒後、当時20歳の青木蔵男さん(101)が通信兵として搭乗する中型輸送機は離陸を始めた。敵の攻撃から逃れるためだ。
飛び立ってすぐに海面すれすれまで高度を下げる。機首は北西に約1000キロ離れたテニアン島に向いた。同島の基地にたどり着き、わきの下に冷たいものを感じた。「冷や汗というものは、助かったと思った瞬間に出る。生死は紙一重だ」
現在の茨城県常陸大宮市に生まれた。海軍に志願し、モールス通信の技術を学んだ。
開戦が迫り、海軍全体が張り詰めていた1941年12月4日、太平洋の南鳥島に派遣された。
上官から「ハワイの真珠湾を攻撃すれば、米軍は日本の艦隊を追撃する。この島にも向かってくる。それを爆撃するのだ」と命じられた。60キロ爆弾を担いで航空機の胴体の下部に装着した。
日米の戦端が開かれた同8日から毎日、6~9時間、上空から敵艦を探した。しかし米艦隊は姿を見せない。「助かった」と思った。
戦線は太平洋全域に広がり、青木さんはこの約1年後、日本軍の要衝・ラバウルの基地に送り込まれる。そこは「搭乗員の墓場」と呼ばれた激戦地。米軍が上陸してきたソロモン諸島・ガダルカナル島に向けて、出撃が繰り返されていた。
ある日、マラリアにかかった通信員の代わりに、「あすは爆撃に行ってもらう」と命令された。翌朝、この隊員が回復したため、搭乗を免れた。その機体は、帰ってこなかった。「戦場では、運と不運の分かれ道がいっぱいある」と痛感した。
歴史的な事件に遭遇し、死を免れたこともある。
43年4月18日、現地の部隊を激励する山本五十六・連合艦隊司令長官が搭乗する機体を追って、ラバウル基地を離陸した。山本長官が訪問する予定だったブーゲンビル島の基地に着いたとき、慌てふためいた上官から「長官機はどこへ行ったのか」「煙は上がっていなかったか」と問い詰められた。
このとき山本長官を乗せた機体は、待ち伏せしていた米軍機に撃ち落とされていた。青木さんがラバウルに帰還すると、司令部から「絶対に口外するな」と命じられた。生死を分かつのはわずかな差だった。
太平洋を単独で飛ぶ輸送機に通信員として乗ることが多く、1700時間近くに及ぶ飛行は常に死と隣り合わせだった。
三沢基地(青森県)で終戦を迎えた。戦後は海上自衛隊員となり、保険会社でも働いた。横浜市の自宅で穏やかに暮らしている。
今も亡くなった戦友たちのことは忘れない。共に通信の技術を学んだ同期生約100人のうち、戦争を生き抜いたのはたった9人。数年前、最後の同期生が逝った。
元兵士の証言を集める民間団体「戦場体験放映保存の会」(東京)が主催する会合や高校生の前で積極的に体験を語ってきた。大きな病気はしていない。しかし、近年は体の衰えを感じる。
「仲間の9割が死んだ。戦争はしてはならない」。この夏、静かに思う。(畑武尊)
ガダルカナル島、トラック諸島で激戦
太平洋戦争で日本は石油などを求め、現在のインドネシアといった南方の資源地帯を侵略した。さらに支配領域を広げるためソロモン諸島に進出。開戦初頭の打撃から立ち直った米国とガダルカナル島などを巡って激しい戦いを続けた。
日本側の作戦を支える中部太平洋の拠点が、第1次大戦後に日本の委任統治下に入ったトラック諸島で、山本五十六長官は同諸島で指揮を執っていた時期がある。
米軍はガダルカナル島の戦いで日本を破り、1944年2月にはトラック諸島に大規模な空襲を行った。同年7月には、テニアン島のすぐ近くにあるサイパン島を占領し、日本本土を爆撃する足がかりとした。
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