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「真面目で図書委員をやるような女の子がこっそり読む雑誌に」……BL源流の漫画雑誌JUNEを振り返る

読売新聞 / 2024年8月26日 15時30分

 1970~90年代に若い女性を中心に絶大な人気を誇った漫画雑誌「 JUNE ジュネ」の歴史をつづった『「JUNE」の時代』(亜紀書房)=写真=が刊行された。美少年や美青年同士の恋愛を描く「BL(ボーイズ・ラブ)」の元祖と言われる。 ひそやかで妖しく、何よりも自由な漫画が花開いた時代を振り返った。(池田創)

佐川俊彦元編集長「女の子の避難場所」

 「世界にBLが広まった現在、当時の出版状況を知る者として記憶を書き残したかった」。著者で元編集長の佐川俊彦さん(70)は、穏やかに語り始めた。

 JUNEの前身となる「Comic JUN」は1978年にサン出版(現マガジン・マガジン)から創刊された。当時は各社から雑誌が刊行され出版業界全体が右肩上がりの状況で、アルバイトだった佐川さんも企画を提出するように求められた。竹宮惠子さんらが発表していた少年が主人公の漫画や、「コミックマーケット」で男性同士の恋愛の同人誌が人気を集めていることから着想を得て、女性向け漫画雑誌の企画を提案し採用された。

 創刊号の表紙は竹宮惠子さんが手がけ、木原敏江さん、大島弓子さんらがカラーイラストを寄せた。 (たん) ()的な少年同士の愛を描いた漫画のほかに、映画や音楽など美少年に関する情報を掲載した。

 「真面目で図書委員をやるような女の子が、こっそり読むような雑誌になった。読者は男の子に化身して、性的な自由を得ていたのかもしれない」

 佐川さんによると、みのり書房(当時)から刊行されていたサブカル情報誌「OUT」をライバルとして想定し、ページ数もほぼ同じ厚さで、160ページ前後だった。「漫画を多く載せることができないため、短編や情報欄で勝負する方針で編集した。当時のJUNEはBL雑誌ではなく、まだはっきりと輪郭のわからない、雑多な何かが同居していた。それこそが雑誌文化が持つ魅力でもあったと思う」

 JUNEは小説や批評など、文章作品を掲載していたことも特徴のひとつだ。中でも後に『グイン・サーガ』シリーズで人気を博す作家の栗本薫さん(1953~2009年)はキーパーソンだった。創刊号に掲載された小説「 薔薇 ばら十字館」の作者「ジュスティーヌ・セリエ」は栗本さんの変名で、中島 あずさ名義で少年愛についての論考も同誌で発表した。

 「ものすごい読書量があり、小説と評論の二刀流だった中島さんの存在は大きく、とても助けられた」

 佐川さんは後に編集長に就任、兄弟誌「小説JUNE」なども手がけた。JUNE本誌は95年に終刊し、佐川さんはレディースコミックなどを担当した後、2006年に京都精華大に教員として赴任し、マンガ学部で編集の仕事などについて教えている。

 「漫画は本来、社会や学校の規則を打ち破る自由なものだ。JUNEが提供したものは、読者の女の子にのしかかってくる抑圧からの秘密の避難場所だったのだと思う」

妻・漫画家 ささやさんの思い出も

 本書は佐川さんの妻であり、6月に74歳で亡くなった漫画家、ささやななえこさんとの出会いや晩年についても明かしている。

 佐川さんは大学生のときにささやさんと知り合った。ささやさんは、ホラーやコメディー、ミステリーなど幅広いジャンルで人気を得た。JUNEにも作品や挿絵を発表しており、漫画作品「沈黙の朝」は戦時下の少年たちの出会いを繊細な筆致でつづった。

 晩年は認知症のため施設に入り、穏やかな日々を過ごしていたという。「漫画家として忘れられることが一番残念なので、この本をきっかけに、ささやのことも思い出してほしい」

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