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82歳の橋爪功、人気俳優となっても一貫して新劇界に身を置く理由…今も浮かぶ芥川比呂志の顔

読売新聞 / 2024年8月20日 16時0分

「新劇の未来? 期待もしてないけど、別に絶望もしてない。『身をやつす』ことって、面白いから。普段出会えない自分に会えるし、何かが見えてくる。放っておいたって、続いていくんじゃないですか」=若杉和希撮影

 テレビ・映画でも長年活躍を続ける82歳の名優、橋爪功は文学座から劇団雲、演劇集団円と60年以上、一貫して新劇界に身を置いている。俳優人生の軸となった新劇への思いを語ってもらった。(森重達裕)

 1961年、文学座が約10年ぶりに募集した付属研究所に入った。同期は悠木千帆(樹木希林)、寺田 みのり、岸田 しんら後の名優ぞろい。研究生時代は野球部の主力選手となり、俳優座や民芸のチームとも対戦した。その活躍で研究所を修了後にも劇団に残れたと笑い飛ばす。「『役者としてダメでもいいから必ず残せ』と野球部の先輩たちの後押しがあったと後で聞いた」

 文学座では生涯の師と仰ぐ芥川比呂志と出会った。父は文豪・芥川龍之介で、「貴公子ハムレット」と呼ばれた俳優・演出家。長年、病魔と闘い、61歳で旅立った。「天才肌でフランス語もできるインテリ。演技への情熱もすごくて、話を聞いてるだけで楽しかった。この人についていけば間違いないと」

 文学座は上演作品の方針を巡って対立が深まり、63年に芥川をはじめ多くの退団者が雲を結成。橋爪は内情が分からないまま芥川について退団した。やがて雲でも路線対立が起き、75年、やはり芥川と共に円へ移った。

 たびたびの対立、分裂について、伝統的な芸術ではない新劇は、よりどころとなる理念や思想を常に探しているからだろうと橋爪は言う。「何となく不安で、だから作家におぼれたり演出家におぼれたりする。自分たちが根無し草とまでは言わないけど、10年ぐらいたつと劇団の中で二つ三つ、分裂の要素ができる。気がついたら雲も分裂したけど目の前の問題に忙殺されて、ほとんど覚えていないです」

 雲から円の結成に至る時代は、「小劇場ブームが始まろうとしていて寺山修司や唐十郎が世に出ていた。今から思えば時代の転換点だった」。アングラ演劇の旗手だった唐とは同世代だったが、“新”劇に身を置きながら演劇界の最新の動向を知らず「のほほんと過ごしていた自分」がショックだったという。「後年、唐とはテレビや映画で一緒に仕事した。せりふを聞いてもなるほど面白い。唐の芝居は芸術じゃなく芸能なんですよね。それは俺と一緒だった。そういう意味で唐にシンパシーがありました」

 40代から映像の仕事が途切れなく続く人気俳優となったが、円を出てフリーになる気は一度も起きなかったという。その理由は「芥川さんです」と言い切る。

 「名人からじかに肉声で聞いたことは自分の中に残る。先輩が作ってくれた文学座、雲、円と、あえて新劇という言葉を使うけど、それは潰したくない気持ちが大きい。今も芥川さんや先輩たちの顔が浮かぶ。だから死ぬまで、(新劇を)やめないと思いますよ」

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