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「3・11」直後に1冊の少年ジャンプ回し読み、子どもたちを笑顔にした逸話が教科書に…仙台の書店が今月限りで閉店

読売新聞 / 2024年8月22日 17時20分

 東日本大震災の発生から間もない頃、仙台市青葉区の「塩川書店五橋店」で、小学生らが週刊少年ジャンプ(集英社)に夢中になった。最新号を入荷できないなか、知人から譲り受けた店長の男性が、自由に回し読みできるようにレジの前に置いた1冊だ。逸話が教科書でも紹介された書店は経営難が続き、惜しまれながら今月末で店じまいする。(東北総局 林航平)

 「少年ジャンプ 読めます!!」

 2011年3月、東北大学近くの路地にある書店。貼り紙を見た小学生らが連日のように20人、30人と訪れると、人気漫画「ワンピース」などを食い入るように読んだ。店長の塩川祐一さん(61)は「暗いニュースばかりを聞かされる子供たちに、少しでも笑顔になってほしい」と、回し読みを思いついた。

 震災10日後、顔見知りの男性客から「店長も読んでよ」と、山形県内で買ったという最新16号(3月19日発売)を譲り受けた塩川さん。「色々な方の思いやりがあった」と振り返る。子供たちは「1回読んだら20円」とルールを作って箱に入れた。4万円ほどが集まり、被災した市内の学校に全額寄付された。書籍や雑誌の配送が再開するまでの1か月ほどの間、大人も含め大勢に読み継がれ、表紙はボロボロになった。

 当時小学3年だった大学院生の男性(22)も5、6人で順番にページをめくった。「余震の不安もあったが、嫌なことを考えなくていい、憩いの時間だった」と懐かしむ。言語聴覚士の資格を取得し、福祉の勉強を続けており「漫画や本を読む習慣をつないでくれた」と話す。

 このエピソードは東京書籍の教科書に「百人以上の子供たちに回し読みされ、暗くしずんだ子供たちを笑顔にしました」と掲載された。中学校道徳教科書編集長の柳川美沙希さんは「周りの人のために何ができるかを考えてもらう学びが詰まっている」と語る。

 多くの思いが詰まった1冊は、12年に「手塚治虫文化賞」の特別賞を受けた。今は集英社で保管されている。週刊少年ジャンプの斉藤優編集長は「震災時、エンターテインメントの役割に私たちも疑問を持つなか、強く勇気づけられた」と感謝する。閉店については「すてきな本屋さんだと感動していたので、非常に残念」と惜しむ。

 塩川さんは妻の朋美さん(62)と二人三脚で切り盛りしてきた。通信販売や電子書籍に押されるなか、診療所の事務職員も務めながら父の代から62年間続く店を守ってきたが、今夏での廃業を知らせる貼り紙を出した。教科書を読んだ子供たちに申し訳ないとの思いもあるが、「ここまで続けられたのは支えてくれたお客さんのおかげ」。本屋をやってきてよかったと思う。

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