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ウクライナ越境攻撃は「大胆な賭け」…成果強調するが東部防衛は手薄に、「まだ評価早い」見方が大勢

読売新聞 / 2024年8月22日 7時53分

[スキャナー]

 ウクライナがロシア西部クルスク州に越境攻撃を開始してから2週間余が経過した。ウクライナは東部を中心に露軍の攻勢で苦戦が長期化しており、奇襲で戦局の打開を図ったとみられている。ロシアの侵略開始から24日で2年半となるのを前に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が仕掛けた「賭け」は実を結ぶのか。

ロシアのお株奪う

 「我々は目標を達成しつつある」

 ゼレンスキー氏は20日のビデオ演説で、越境攻撃の成果を強調した。6日に越境攻撃を始めたウクライナ軍は、クルスク州で東京23区の約2倍にあたる約1263平方キロ・メートル、93集落を制圧したと主張している。米政策研究機関「戦争研究所」によると、露軍が今年1月以降にウクライナで占領した面積に匹敵する。

 ウクライナは露軍の攻撃拠点を制圧し、自国内への攻撃を防ぐ「緩衝地帯」を設置するのが目的だと説明する。ロシアは今年5月、ウクライナ北東部ハルキウ州に「緩衝地帯」を作る名目で地上部隊を進軍させており、ロシアのお株を奪った形だ。

 ウクライナは昨年の大規模な反転攻勢の失敗後、守勢が続く。国民にわかりやすい「戦果」をもたらし 厭戦 えんせん気分の解消を狙ったとみられている。米欧諸国にはウクライナ軍の能力の高さも誇示し、ウクライナへの支援が無駄ではないことのアピールになる。11月の米大統領選でトランプ前大統領が勝利した場合、取りざたされるロシアとの和平交渉で「交渉カード」にも使える。

 越境攻撃は極秘に準備した。ゼレンスキー氏は19日、米国など支援国にも伝えていなかったと明かした。ロシアは、核兵器の使用もちらつかせて露領内への攻撃を「レッドライン(越えてはならない一線)」と警告しており、越境攻撃が支持されないと判断したためだ。

奪還妨害

 ウクライナは、制圧地域を当面、保持する構えだ。露産天然ガスの欧州向けパイプラインの中継拠点がある町スジャを「完全制圧」し軍政事務所も開設した。

 軍の発表などによると、セイム川の州西部にかかる三つの橋を破壊、損傷させた。露軍の補給寸断と、領土奪還に向けた動きの妨害を狙っているとみられる。

 ウクライナは越境攻撃と並行して露領内への無人機攻撃も活発化させている。露国防省は、ウクライナ軍が20日夜から21日にかけて露各地に無人機攻撃を行ったと発表した。ポドリスクなどモスクワ近郊で11機を撃墜したとしている。モスクワ市長は「過去最大規模」の攻撃だと非難した。

 ウクライナによる越境攻撃は「大胆な賭け」(英紙ガーディアン)と評される。米欧製の装甲車などを持つ精鋭部隊を含む少なくとも4旅団、1万人以上の兵力を投入したとされ、露軍が占領を目指す東部などの防衛が手薄になるためだ。

 露軍は最優先で制圧を狙っているとされるウクライナ軍の輸送拠点ポクロウシクへの攻勢の手を緩めていない。露軍が部隊を東部からクルスク州に移動させる動きは限定的だ。ウクライナの思惑は外れている。

 将来的に露軍がクルスクの領土奪還に成功すれば、ゼレンスキー氏や軍が一転して批判を浴びるシナリオも想定される。越境攻撃について「最終的な結果を評価するにはまだ早い」(戦争研究所)との慎重な見方が大勢を占めている。

露、目立つ後手の対応

 ウクライナの越境攻撃はロシアにとって、ソ連時代を含め第2次世界大戦以来初めて、外国の正規軍による自国領への侵攻と占領を許したことを意味する。越境攻撃を「テロ行為」と位置づけて対処するプーチン政権には、事態の過小評価や 隠蔽 いんぺい体質も見え隠れする。国民の不満が高まる兆しも見え始めている。

 プーチン大統領は20日、露南部北オセチア共和国のベスランに足を運んだ。2004年9月に子どもを含む約330人が犠牲になった学校占拠事件の記念碑で祈りをささげ、面会した犠牲者の母親にこう語った。

 「当時テロリストと戦ったように今日、我々はクルスク地方やドンバス地方で犯罪者と戦わなければならない。犯罪者は処罰する」

 プーチン政権はウクライナ軍が公然と越境攻撃を仕掛けても「戦争」と呼ばず、「テロ行為」との認識だ。

 ロシア側は後手の対応が目立つ。ロイター通信によると、元軍人のアンドレイ・グルリョフ下院議員は、約1か月前にウクライナ軍による攻撃の兆候について露軍幹部が警告を受けたが、警告は無視されたと語った。

 越境攻撃の開始直後、軍のワレリー・ゲラシモフ参謀総長は「ウクライナ軍は1000人程度」で露軍が撃退したと報告したが、事実と異なることが明らかになった。プーチン氏の機嫌を損ねないように失敗を隠そうとする体質が根深いことをうかがわせる。

 露政府系の世論調査団体「世論基金」によると、今月11日の調査で、当局の行動に不満を感じると答えた人は先月下旬から7ポイント増の25%だった。昨年6月に民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏が武装蜂起を起こした後に記録した26%に次ぐ水準になっている。

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