1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

突然の失明で引きこもり、一念発起しブラインドサッカー代表の主力に…きっかけは「娘の作文」

読売新聞 / 2024年8月27日 16時40分

巧みなボールさばきが持ち味の後藤選手。「家族につらい思いをさせた分、最高の結果を勝ち取りたい」と意気込む(7月4日、大阪市北区で)=長沖真未撮影

 トリコロール(三色旗)がはためく自由の国、フランスで28日、パリ・パラリンピックが開幕する。周囲に支えられながら心身を鍛え上げ、ハンデをものともせず躍動する選手たちに迫る。

[トリコロールの下で パラリンピック]ブラインドサッカー 後藤将起39

 6月上旬のある日の朝、JR広島駅(広島市)の改札前にブラインドサッカーの後藤将起選手(39)の姿があった。「結果がわかったら連絡するよ」。見送りに来た妻の千暁さん(39)と3人の子どもにそう告げると、新幹線に乗り込み、トレーニングのために単身で暮らす東京へ戻っていった。

 パリ・パラリンピック日本代表の内定選手10人が発表される日だった。直前の国際大会で得点王に輝いたから、選ばれる自信はあった。それでも正式に代表選出を伝えられると、ほっと胸をなで下ろした。

 「決まったよ」。夜、千暁さんにスマートフォンで報告すると、次々に「おめでとう!」と無邪気に喜ぶ子どもたちの声が聞こえてきた。

 8年前に失明した時は、家族を喜ばせる父親に二度となれまいと絶望した。みんな、どんな表情をしているのかな――。スマホ越しに想像を巡らせながら、力強く宣言した。「父さん、頑張ってくるから」

 広島市で理学療法士として働いていた2016年2月、訪問先でお年寄りのリハビリを手伝っていた時、日中なのに突然、目の前が暗くなった。「雨でも降るんですかねぇ」と話していたら、「……全然、晴れているけど」とけげんそうな答えが返ってきた。

 医師の診断は、特発性視神経炎。視力が戻ることはなく、家に引きこもった。仕事をやめ、育児もできず、保育士の千暁さんに頼ってばかり。足手まといになると離婚を切り出すほど追い込まれた。

 1年が過ぎた頃、長女の彩葉さん(11)の小学校入学のことが頭をよぎった。「お父さん」の題で作文を書くことになったら、娘はどうするだろうか。「堂々と書けるような父親にならなきゃ」。マッサージ師の資格を取ろうと、18年4月、県立広島中央特別支援学校に入学した。

中学で全国大会出場の実力

 通い出してまもなく、視覚障害者らが体育館でブラインドサッカーの練習をしていると聞き、参加させてもらった。ボールは、目が見えなくても位置がわかるよう、「シャカシャカ」と金属音が鳴る。子どもの頃は高校までサッカーに打ち込み、中学時代は全国大会に出場したこともある。自信はあったが、音が聞こえる方向がわからず、パスを受けることさえできない。走っているうちに、ピッチの外に出てしまうこともしばしば。しかしボールを追う楽しさを思い出し、休日も知人に練習に付き合ってもらうほどのめり込んだ。

 翌年、小学校に進学した彩葉さんは作文にこうしたためた。「父さんは、マッサージとブラインドサッカーをがんばっています」

 20年秋、広島市で開かれた大会で、日本ブラインドサッカー協会のスタッフにボールさばきのうまさや正確なキックを見いだされ、「日本代表を目指さないか」と声をかけられた。

 月に2回ほど、都内の合宿に参加するようになると、日本代表の川村怜主将(35)の勧めもあり、22年6月に単身で上京し、都内の会社でマッサージ師として働きながら、代表の練習に毎日参加した。昨年5月に代表デビューし、3か月後の世界選手権では、日本代表初の自力でのパラリンピック出場権獲得に貢献。瞬く間に主力選手に成長した。

 パリには、千暁さんと子どもたちも応援に駆けつける。「家族とブラサカがあったから、絶望からはい上がれた。かっこいい姿を見せ、恩返ししたい」。子どもたちにとっては初めての海外旅行。最高の夏休みの思い出を届けたいと願っている。(塚本康平)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください