1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

三菱重工爆破事件の元捜査員「事件はまだ終わっていない」…発生50年、2容疑者の海外逃亡続く

読売新聞 / 2024年8月24日 19時14分

 1974年8月に起きた三菱重工爆破事件は30日で発生から50年となる。海外進出企業を「帝国主義」と批判し、連続企業爆破事件を起こした過激派「東アジア反日武装戦線」の2人は海外逃亡を続けており、元捜査員は今も悔しさを募らせている。(小川朝煕)

地獄絵図

 ドーン。東京・丸の内のオフィス街に 轟音 ごうおんが響いたのは金曜日の午後0時45分頃だった。約1キロ先の警視庁本部にいた元鑑識課員の戸島国雄さん(83)は、あまりの衝撃に「飛行機が墜落したのか」と思った。

 三菱重工業ビル前の仲通りには一面にガラス片が飛び散り、爆風で負傷した人などが血を流して倒れていた。まるで「地獄絵図」のようだった。戸島さんは爆発物の証拠品を探そうと、四つんばいになって周辺の路上をはい回った。

 <三菱爆破を決行したのは東アジア反日武装戦線“ (おおかみ)”である>

 約1か月後に出された声明に、警察は意表をつかれた。捜査線上にない「ノーマーク」の組織だった。

腹腹時計

 警視庁公安部は、関係先から押収した同組織の爆弾教本「 腹腹 はらはら時計」を分析し、実態解明を進めていった。

 腹腹時計には、アイヌなどの少数者が革命の主体になり得るという主張があった。北海道にゆかりのある人物を洗い、浮かんだのが小樽市に本籍を置く佐々木規夫容疑者(75)だった。

 「極端な秘密主義、閉鎖主義は墓穴を掘る」。教本のこうした記述に従ったのか、佐々木容疑者は役所に住民登録し、都内のアパートで堂々と生活していた。

 元公安部捜査員の男性(74)は事件後、佐々木容疑者の姿を撮影する役割を任された。アパート近くに借りた2階の部屋で、勤務先に向かう佐々木容疑者を望遠レンズで追った。眼鏡にコート姿で、周囲を気にするそぶりが見られた。

 公安部はこうして佐々木容疑者を追い、接触した仲間を割り出していった。三菱重工に始まる連続企業爆破事件に関与したとして、75年5月、佐々木容疑者や大道寺あや子容疑者(75)ら8人を逮捕した。

超法規的措置

 だが、事件は過激派「日本赤軍」のテロによって異例の展開をたどる。マレーシアの米大使館などを占拠した「クアラルンプール事件」(75年)とインド上空で日本航空機をハイジャックした「ダッカ事件」(77年)で、人質解放を条件に獄中の人物に「超法規的措置」が取られ、佐々木、大道寺両容疑者は釈放後、海外に逃れて今に至る。

 今年1月には連続企業爆破事件で指名手配されていた桐島聡容疑者が入院先で70歳で死亡し、約半世紀の潜伏生活が明らかになった。

 佐々木容疑者を撮影した元捜査員の男性はその後、公安部幹部となり、定年まで過激派やカルト団体を追い続けた。「事件はまだ終わっていない」。 忸怩 じくじたる思いを今も抱え続けている。

 ◆三菱重工爆破事件=1974年8月30日昼、東京・丸の内の同社ビル前で、時限式爆弾が爆発し、8人が死亡、380人が重軽傷を負った。東アジア反日武装戦線の「狼」「大地の牙」「さそり」の3派は、75年5月までに商社やゼネコンなどを標的に計12件の企業爆破事件を起こした。

父を亡くした男性「不満を過激な闘争で解消、許されない」

 東京都大田区の石橋明人さん(64)は、三菱重工でゴミ処理プラントの営業マンだった父・光明さん(当時51歳)を亡くした。

 中学3年の夏休み。警察署で遺体と対面した母親から「お父さんだった」と聞き、全身の力が抜けた。秒針の折れた腕時計が爆風のすさまじさを物語っていた。

 葬儀の数日後、父の職場を訪れた。整理整頓された机に触れると涙が出た。誰よりも早く出勤し、同僚の机まで拭いていたと知った。上司からは、仕事で成果を上げた父のために用意していたという「モンブラン」の万年筆を渡された。

 実行役の公判に足を運び、報道も注視したが、彼らの思想や動機を理解することはできなかった。

 安倍晋三・元首相銃撃事件を始め、若者が過激化し、暴力に訴えて社会に影響を与えようとする事件は近年も相次ぐ。そのたびに石橋さんは怒りがこみ上げる。「社会や政治への不満を過激な闘争で解消することは、どんな時代でも許されない」と力を込めた。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください