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ウクライナの受刑者「ここで人生を無駄にしたくない」…自由と引き換えに、兵力不足の軍に入隊

読売新聞 / 2024年8月25日 5時0分

服役中に軍に志願した受刑者たち(19日、キーウ近郊で)=関口寛人撮影

 【キーウ=倉茂由美子】ロシアによる侵略が長期化し、兵士不足に苦しむウクライナでは新法施行で、5月から受刑者が軍に入隊できるようになった。受刑者たちは、塀の外へ出る自由と引き換えに、死の危険を伴う戦場へ向かう覚悟を決めている。

 中部ジトーミル近郊の刑務所は5月以降、収容者が減った。約50人が戦場に向かったからだ。服役中のセルヒー・リトビン(35)は1週間悩んだ末、採用に来た部隊の面接を受けた。

 面接に同席した軍の心理カウンセラーからは「生き残る可能性は10%ほどかもしれない」と何度も告げられた。リトビンはハッキングで他人の銀行口座から現金を盗んだ罪で2022年9月に逮捕され、刑期10年を残す。軍に入れば仮釈放となり残り刑期が免除される。

 「10年もここで人生を無駄にしたくない」。決意は揺るがなかった。

入隊の受刑者「人生をやり直したい」

 ロシアの侵略を受けるウクライナで、兵力として期待される受刑者たちは「人生をやり直したい」と口をそろえた。軍に入隊した受刑者は首都キーウ近郊の基地で生き残りの可能性にかけて訓練を積んでいる。

 1か月前から訓練に臨んでいるドミトロ(28)は19日、「娘が誇れる父親になりたいんだ」と動機を語った。まもなく部隊に合流する。

 5月に施行された新法は、殺人など重大犯罪での受刑者を除き、入隊が認められれば仮釈放となる。最大約2万人の兵士を補充可能とされる。国営通信によると、7月下旬時点ですでに約3800人が前線へ向かった。

 ドミトロは東部ドネツク州バフムト近郊ソレダル出身。16歳の時に逮捕され、20歳で出所した。塩鉱山作業員の職を見つけて、結婚し長女(6)に恵まれた。

 侵略が影を落とした。2022年11月、ソレダルに露軍が迫り、中部への避難を余儀なくされた。仕事を失い無力さを感じていた時、再び犯罪を犯して昨年1月に逮捕され、収監された。

 娘には絶対に知られたくなかった。「仕事で遠くにいる」とウソをついた。今度こそ人生をやり直したい。そこに入隊話が舞い込んだ。

 7月下旬に仮釈放されたが、まだ家族には会えていない。戦争で生き残れば、犯罪者の過去と決別できる。軍人の道を歩めば、手厚い福利厚生を得て、家族の生活が楽になる。「生きて帰れる保証はないが、やってみる価値はある」と切実な表情で語った。

 受刑者が兵士として駆り出された事例は過去の戦争でもあった。ウクライナ侵略では、最初に受刑者を勧誘して前線に大量投入したのはロシアの民間軍事会社「ワグネル」で、露国防省がワグネルの役割を引き継いだ。

 ウクライナがロシアの手法踏襲を余儀なくされたのは侵略の長期化で志願者が減少したのが最大の要因だ。ロシアにならって徴兵逃れに対する罰則も強化した。動員年齢は4月以降、27歳から25歳に引き下げた。

 AP通信などによると、前線で戦うウクライナ軍兵士が約30万人に対し、露軍は侵略開始時点より倍以上多い約50万人と推計される。

国外でも勧誘

 ウクライナ軍への勧誘を国外で展開する部隊もある。

 7月下旬、ポーランド西部ブロツワフのトークイベントには、激戦地で戦う「第3独立強襲旅団」の現役兵士4人が登場し、ウクライナ人の若者ら約130人が詰めかけた。

 部隊は、南東部マリウポリのアゾフスタリ製鉄所で抵抗を続けた「アゾフ大隊」の元隊員を中心に昨年結成され、英雄視される。コールサイン(識別用の名称)「レオ」(22)は「戦場が怖くないと言うのは愚か者。恐怖を自覚した時点で大きな一歩を踏み出している」と呼びかけた。

 9年前からポーランドで働くパブロ・レメハ(29)はこのイベントで帰国を決めた。「戦うべきだと分かっていても怖かった。でも、屈強な彼らも恐怖心を抱えて戦っていると分かった」。反対する家族を説得し、勤務先にも近く退職を告げるつもりだ。(敬称略)

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