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金原瑞人さん 世界を広げたアングラ演劇

読売新聞 / 2024年8月30日 15時15分

『煉夢術』唐十郎著(中央公論社) 品切れ

 「『書物』ではないかもしれないけど……」と、最後に挙げたのは、アングラ演劇の旗手、唐十郎の戯曲『 (れん) () (じゅつ)』だった。「演劇」も、自身を構成する大切な要素だという。

 高校生の頃、岡山市内の書店で、箱入りの戯曲の本を偶然手に取った。沈みかけの船を背景に、シルクハットの男性がたばこをくゆらせているモダンな表紙。これにほれ込んで、「ジャケ買い」をした。

 ただ、当時は唐十郎の名前を知らず、戯曲の内容も理解できなかった。「牛乳瓶の紙の蓋をいじっているような場面は覚えているのですが。よく分からなかったけれど、装丁と奇妙な内容は、頭に染みついていました」

 『煉夢術』を読む前は、演劇といえば「新劇」のことだと思っていた。岡山で育った高校時代は、地方公演にきた文学座や俳優座といった新劇の公演をよく見ていたからだ。

興味は広がり、野田秀樹の舞台や歌舞伎、文楽にも

 アングラ演劇を実際に見たのは、東京での浪人時代。下宿仲間に誘われて寺山修司や唐十郎の劇を見始めた。そこから興味が広がって、つかこうへいや野田秀樹の舞台、歌舞伎や文楽にも足を運ぶようになった。「こんなに面白かったのか」。一冊の「奇妙な本」との出会いが、自身の世界を広げてくれたことをかみしめている。

 現在は、法政大でシェークスピアも教えている。「ドラマチックで意外と残酷。なによりセリフがかっこいい」。絶賛しているのかと思えば、「実はあまり好きじゃない」と返ってきた。「ここで観客を泣かせるんだろうな、と納得はするけれど感動はしない。心が置いていかれる感じがある」と首をひねる。

 あえて作品を挙げるとすれば、四大悲劇の一つ「リア王」だという。「センチメンタルで残酷だから」。好みの軸は変わらないようだ。

 「私を作った書物たち」というテーマで1時間半、語ってもらった。最後にぽつり。「本当に自分を作ってくれているのかな?」。絶句する記者に、「浴びるように見たり読んだりしてきたけれど、そんな浅い付き合いで身になっているのかよく分からない。好きに書いてくださいね」と爽やかに言い残し、去っていった。(小杉千尋)(おわり)

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