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生まれつき脚にまひ・「立位」卓球でけが・「車いす」転向…多くの障害乗り越えパリへ「みんなの応援の力」

読売新聞 / 2024年8月28日 15時20分

「立位」でプレーしていた頃の七野選手(2019年8月、東京都港区で)

 トリコロール(三色旗)がはためく自由の国、フランスで28日、パリ・パラリンピックが開幕する。周囲に支えられながら心身を鍛え上げ、ハンデをものともせず躍動する選手たちに迫る。

[トリコロールの下で パラリンピック]卓球 七野一輝 25

 生まれつき両脚にまひがあり、「車いす」クラスで出場する卓球男子、 七野 しちの一輝選手(25)は以前、立ってプレーする「立位」クラスの選手だった。

 中学校の部活動では「 つえがないと歩けない自分でもできる卓球」を熱心に研究した。左肘に装着した杖で体を支え、右手でラケットを操ってサーブやラリーをこなし、部内では試合も楽しんだ。ただ、顧問の井上岳史さん(61)が対外試合への参加希望を募っても、手を挙げなかった。

 「知らない人が大勢いる所で嫌な思いをするぐらいなら……」。小学生の頃、不自由な歩き方をまねされたことがトラウマだった。

 井上さんは乗り越えてほしいと声をかけた。「頑張っているんだから、1回でいい。出てみないか」

 何でその気になったのかは覚えていない。試合は1ゲームも取れない惨敗だったが、逆に闘志が湧いた。「障害を理由に他人より劣るのは嫌だ」

 部活動だけでは足りないと、卓球クラブ「Jクラブ」(東京都八王子市)の門をたたいた。練習初日、筋トレメニューをこなせず、ぼんやりしていると、代表(当時)の藤岡謙造さん(71)に声を掛けられた。

 「卓球台に手をついて腕立て100回やってみろ」

 「本気か」と驚きつつ、やり遂げた。障害に遠慮しない雰囲気が心地よかった。

 藤岡さんは、勝つための指導をしてくれた。「自分で動くのが難しければ相手を振り回せ」。卓球台を広く使う戦術を身につけた。

 杖をついていたことで鍛えられた上半身がプレーに生きた。強い回転と力が乗った球で、次第に健常者に勝ち始めた。中学の試合では、七野選手のプレーを見学する他校の生徒で人だかりができた。得意のフォアハンドスマッシュを決めると、「すっげー」と歓声が上がった。

 高校3年生になった2016年、「立位」クラスで日本代表に入り、大学時代は東京パラリンピックを目指した。出場権に一歩届かず、目標をパリに変更した後の22年春、試練に見舞われた。

 練習中の転倒で股関節などを負傷。立位でのプレーが困難になり、引退も脳裏をよぎった。

 Jクラブ時代からの友人で、日本代表入りした頃からコーチを務める山岸護さん(24)に転向を相談すると「一輝の卓球人生なんだから、やりたいことをやれ」と励まされた。山岸さんが他の車いす選手のプレー動画を集め、新しいスタイルを一緒に研究した。

 山岸さんが最も強調したのは意外にも、利き手とは逆の「左手」だった。七野選手は上半身の力が強く、フォアを打つとしばしば、車いすが左方向に回転し、次の返球姿勢を取れなくなった。そのため、車輪を回す「ハンドリム」を左手でコントロールすることを意識しながら練習し、克服した。

 立位時代から目線が下がった影響で、自分が打つ球の距離感にずれが生じたが、山岸さんらに動画を撮ってもらい、車いすに合った打ち方に修正した。立位時代と変わらぬ強さを取り戻し、転向からわずか半年後には全日本選手権で優勝。23年には国際大会でも優勝して代表の座を射止めた。

 「けがをした時は正直諦めていたけど、応援してくれたみんなの力で立てる舞台。1試合でも多く勝ちたい」。パリでは感謝の気持ちで戦う。(松本慎平)

障害の内容・程度別 11クラス

 パラ競技の最大の特徴は選手の「クラス分け」だ。障害の内容、程度は選手によって異なり、勝負の公平性を保つために行われる。

 卓球では車いす(1~5)、立位(6~10)、知的障害(11)の計11クラスに分かれる。数字は障害の程度を表し、小さいほど重い。車いすでは、座った際の上半身のバランスや上肢障害の程度などが基準となる。

 団体競技では、チーム全体で公平性を保つ。車いすラグビーでは、障害の程度で0・5点刻みに0・5~3・5点の持ち点を設定。コート上の4人の合計を8点以内にして試合をする。

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