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大学病院で働く医師らの研究時間確保を支援…新薬・治療法開発の停滞回避へ、文科省が方針

読売新聞 / 2024年8月27日 15時0分

文部科学省

 文部科学省は来年度、大学病院で働く医師らの研究環境を改善するため、研究時間の確保や業務負担の軽減に取り組む大学に補助金を支給する制度を創設する方針を固めた。今年4月に始まった「医師の働き方改革」では、残業時間に上限規制が設けられた。規制の範囲で研究時間を確保するよう大学に促すことで、新たな薬や治療法の開発が停滞しないようにする。

 大学病院や医学部の医師は、医学研究と並行して診療を行っている。だが、地域医療の中核を担っているため、多くの医師は勤務時間の大半を診療に充て、研究に十分な時間を割けない。

 こうした事態が続けば、専門性の高い治療法の習得や学生を指導する機会が減り、医療水準を維持・向上させることが困難になる可能性がある。製薬企業との共同研究が減れば、創薬力の低下も招きかねない。

 文科省が2023年に発表した大学病院で働く医師を対象にした調査では、若手中心で構成される助教の回答者173人の65%は研究時間が週に5時間以下で、15%は時間がゼロだった。働き方改革が始まったことで、今後、さらに状況が深刻化すると予想されている。

 そのため文科省は来年度、研究時間を十分確保できるよう医師をサポートする大学を支援する「医学系研究支援プログラム」を始める。

 対象は、医師が協力して診療を分担する体制を整える試みや、人工知能(AI)を活用した書類作成業務の自動化、事務作業の外部委託を通じて医師を支える大学などを想定している。

 文科省は、人件費や委託費の一部などに使う補助金を大学に支給。来年度予算の概算要求に関連費約30億円を盛り込み、1件あたり2億円程度を支援する。

 地方の複数大学で構成するグループも支援対象とし、地方の医師不足の緩和につなげる効果を狙う。文科省は、成功事例を全国に波及させ、研究と診療が両立できる環境を早期に実現する。

 慶応大の前医学部長で、医学研究の実態に詳しい同大の 天谷 あまがい雅行教授は「日本の医師は研究に専念する余力がなく、その傾向は若手ほど顕著だ。医学研究の現場は危機的な状況で、国は次世代を担う専門医を戦略的に支えるべきだ」と話す。

論文低迷、技術立国揺らぐ

 文部科学省が医師の研究時間の確保に取り組む背景には、医学分野の研究力低下に対する危機感がある。

 国の調査によると、引用された回数が上位10%に入る質の高い研究論文の数で、日本の低迷は顕著だ。臨床医学分野では、1999~2001年の平均で世界4位だったが、19~21年は9位に下落。基礎生命科学分野でも、4位から12位に落ち込んだ。

 臨床医学と基礎生命科学の論文数は、全世界の自然科学系の論文の5割を占めるほど比重が大きい。医学研究の低迷は、科学技術立国の地位を脅かす問題だ。

 一方、長時間労働が原因で医師が自ら命を絶つ例が相次ぐなど、働き方改革は喫緊の課題といえる。研究時間が不足する問題と同時に解決するには、医師個人の努力に任せるのではなく、政府や大学など組織ぐるみの取り組みが不可欠だ。(科学部 中根圭一)

◇医師の働き方改革=2019年4月施行の働き方改革関連法などに基づき、労使協定を結べば事実上無制限だった勤務医の残業時間に原則年960時間の上限が設けられた。施行後5年間の適用猶予期間は今年4月に終了。地域医療の従事者らは年1860時間まで可能だが、この特例も35年度末に終了する。

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