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韓国作家ハン・ガンさん「四・三事件」扱った『別れを告げない』日本版刊行

読売新聞 / 2024年8月29日 15時30分

 英国の文学賞「国際ブッカー賞」を受けるなど、世界的に活躍する韓国の作家、ハン・ガンさんが、長編小説『別れを告げない』の日本語版(白水社、斎藤真理子訳)=写真=刊行を機に書面でのインタビューに応じた。韓国・済州島での四・三事件を扱った作品で、生と死のあわいを幻想的に描きながら、重い歴史に迫った。(川村律文)

執筆7年 重い歴史に迫る

 本作の冒頭では、海沿いの墓地のような場所の夢が描かれる。民主化運動に対する武力鎮圧を巡る「光州事件」を題材とした小説『少年が来る』を2014年に出版してから、1月ほどたった頃に、自身が見たものだ。「この夢は私に何かを語りかけている」と感じ、この場面から始まる小説を構想した。「小説を完成させたのは2021年の春ですが、それまでの7年という時間は、この小説の形を探っていく過程でした」

 作家のキョンハは、指を切断して入院中の友人・インソンから、済州島の家に行き、飼っている鳥の世話をするよう頼まれる。大雪の中で家にたどり着いたキョンハは、インソンの母が長く追い求めていた「四・三事件」の歴史に触れていく。武力による鎮圧と、その後の虐殺、インソンの父や伯父が体験した苛烈な体験、そして事実について長く沈黙を強いられてきたこと……。惨劇の描写は生々しい。「過去70年余りの間に多くの証言が集められ、研究された。私の課題はそれを最大限に読み込むことでした」と振り返る。

 物語では、ソウルの病院に入院しているはずのインソンが済州島の家に現れてキョンハに語りかけ、埋葬したはずの鳥が戻ってくる。生と死を巡る幻想的な描写が繰り広げられる。「不可能な出会い」は、『すべての、白いものたちの』などの作品で、この作家が描くモチーフだ。「インソンとキョンハの不可能な出会いが、雪の降る深い夜、深海のような沈黙の中で実現するようにしたかった」。地元の雑誌を読み、現地を歩いたことも、執筆の力になったという。「済州島の天候を実際に感じながらたくさん歩いたことが、役に立ちました。風と雨と雪の中を」

 重いテーマを扱った作品の執筆は、何度も止まった。「あきらめずに書き続けて、完成した瞬間、本当にうれしかったことを覚えています。喜びを静かに味わいながら、(原稿のデータが入った)USBメモリーをズボンのポケットに入れてずっと歩きました」と振り返った。

 1970年生まれ。2016年に『菜食主義者』で世界的な文学賞である「国際ブッカー賞」をアジア人で初めて受け、その後も海外の文学賞の受賞が相次いでいる。「(勤めていた)大学を辞めて、小説を書くことだけに集中しています。その他には特に変わったことはありません。同じように静かに、素朴に暮らしています」と穏やかな言葉を寄せた。「『すべての、白いものたちの』に似ていて、形式は異なる小説を書きたいと最近は思っています」

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