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「夢中になれることを見つけて」いじめられ留学先でも孤独だった 池澤春菜さん、苦しさ救った「自分の世界」…STOP自殺 #しんどい君へ

読売新聞 / 2024年9月2日 10時39分

小学生の頃から周囲になじめず、中学校では本を隠されたり、仲間外れにされたりした池澤春菜さん

声優・作家 池澤春菜さん(48)

 声優や作家として活躍する池澤春菜さんは中学時代、持ち物を隠されたり、避けられたりするいじめを受けました。学校に居場所がないと感じ、高校時代に留学したタイでは、ホストファミリーから食事を与えられず、さらにつらい経験をしました。しかし、留学やアルバイトでの経験を通じて、「くだらないことに付き合う必要はない」と割り切れるようになりました。子どもたちに「没頭できることや、心が逃げ込める場所を見つけてほしい」と呼びかけます。

本を隠され、クラスでは最後まで一人

 小学生の頃から読書が大好き。小説から哲学的な本まで、大人向けの本ばかり読んでいました。「 輪廻 (りんね)転生はあると思う?」と大人と議論をするのが好きで、学校では休み時間や放課後は一人で読書に没頭することも多くありました。周囲になじめず、「学校に私の居場所はない。だけど耐えなければ」と感じていました。

 中学受験をして入学した中高一貫校では、さらに友人関係に悩みました。

 中1のある日、机にしまっていた本が見つからなくなりました。周囲から、「気づいたみたい」「どうするんだろう?」とあざ笑うような声が聞こえました。みんなの目の前で捜すのも嫌で、放課後に一人、教室中を捜しました。本は掃除道具入れで見つかりました。

 グループ分けをする時には、存在しないかのように扱われ、いつも最後まで一人でした。「また本を読んでいるよ」と聞こえるようにクスクス笑われるのはよくあること。同級生にとって私は異質な存在で、どう接したらいいのか分からなかったのでしょう。

 いじめっ子から排除され、「反応してみなさいよ」とさげすむような目で見られるのが嫌でした。昼食の時間は、みんなが机を向かい合わせておしゃべりする中、私だけ、ぽつんと一人。孤独な姿が可視化されているようでつらかったです。

 中1の秋からお弁当は、家に帰って食べるようになりました。学校が嫌で、朝、玄関で靴を履こうとしゃがんだら、そのまま足が動かなくなって、気づけば2時間たっていたこともあります。昼食後に教室へ戻らない日や、学校を休む日が増えていきました。

留学先では、食事が与えられず病院にも行けない生活に

 そんな生活から逃げ出したいと、高校1年の夏休みに、英国へ2か月ほど語学留学に行きました。世界中から集まった留学生仲間は私をのけ者にすることもなく、ありのままを受け入れてくれました。いじめられることのない世界があることを知りました。

 もっと広い世界を知ろうと、高校2年の春からタイに10か月の予定で留学しました。しかし、タイでは厳しい生活が待っていました。

 留学先はバンコクから列車で20時間ほど南へ行った田舎町。ホストファザーとマザーは、欧米から留学生が来ると思っていたようで、私が訪ねると困惑した様子でした。いわば望まぬ居候です。両親は英語が全く話せず、私と同い年くらいで初歩的な英語を話す娘に、私の世話を押し付けました。

 到着して数日後、おなかを下して熱にうかされましたが、「病院に行きたい」と伝えても連れて行ってもらえません。結局、ベッドで1週間寝たきりでした。その娘さんは両親に「春菜は病院に行きたくないと言っている」と伝えていたようです。彼女のウソは続きました。ご飯ももらえなくなり、食事らしい食事は学校の食堂だけ。家では、学校帰りに買ったお菓子で食いつなぎました。

 日本から持ってきた本を読んでいる時と、日記をワープロで打ち込んでいる時は、それを忘れられる時間でした。本は段ボール1箱分を持ち込んでいて、読み終わらないよう少しずつ読みました。日記は夢中になって書きました。

 両親に助けを求めようと、日記を保存したフロッピーディスクを日本へ送りました。4か月目で、この家族から離れることができました。別の家に移って留学を続ける予定でしたが、迎えに来た留学機関の職員がやせ細った私を見て危ないと判断し、急きょ帰国することに。成田空港に迎えに来た母は、体重が10キロ近く落ち、げっそりした私を見ても、誰か分からなかったほどです。

アルバイトでの出会いが転機に

 高2の夏休み明けから、日本の高校に復帰しました。ただ、挫折して帰国したと思われるのが嫌で、最初は家に引きこもりがちでした。登校は週2、3日ほどでした。

 そんな私を心配した祖父が、知り合いの広告会社での資料整理やお茶出しのアルバイトに誘ってくれました。これが大きな転機になりました。

 会社には、ビシッとスーツを決めた営業マンから、ボサボサ髪で私服のクリエイターまで、いろんな人がいました。社会には、伸び伸びと自分らしくいる人たちがたくさんいることを知りました。

 また、アルバイト先の人たちは良い意味で私に無関心で、それが心地よいと感じました。誰もが、「お疲れさま」「バイトしているんだ、えらいね」と普通に接してくれました。それまで、自分に向けられる言葉や視線は全て「ナイフみたい」だと感じていましたが、「私は生きていてもいい存在なんだ」と感じられました。

 タイでの経験も、自分の考え方を大きく変えました。言葉が通じない世界の「絶対的な孤独」を経験し、言葉が通じる日本に「孤独」はないと気づきました。そう思うと、学校の狭い世界に惑わされるのはくだらなく感じ、嫌がらせも気にならなくなりました。

 登校再開から1か月ほどで毎日通えるようになりました。私が嫌な顔をしなくなったので、面白くなくなったのでしょう。いつの間にか、いじめもなくなりました。

 成人してから出席した同窓会で、男子の一人に声をかけられました。「みんな群れているのに、池澤はいつも一人でいてかっこいいと思っていた。俺は怖くて一人になれなかった」と言われました。「見てくれている人はいたんだ」とうれしかったです。

あなたがいるべき居場所は見つかる

 いじめをしている人に伝えたいことがあります。誰かを支配することで自分に力があるように感じていると思います。でも、一生、人をいじめたという傷を背負って、後悔して生きていくことになると知ってください。

 群れて人をいじめるのは、自分が一人だと思われるのが怖いからです。いじめを受けている人が使うエネルギーが100だとしたら、いじめている人は3くらい。くだらないことに付き合う必要はありません。

 いま、いじめられてつらい人は、自分が好きなこと、夢中になれることを見つけてください。それが、あなたを救います。私は、大好きな読書と日記を書くことで、タイでの苦しい日常から一時的に離れ、自分の世界を持つことができました。もし、それがなければ心が完全に折れていたかもしれません。何でもいいので没頭できること、心が逃げ込める場所があるといいと思います。

 今は、学校が世界の全てのように感じてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。学校がつらかったら、心と体を守るために、そこから逃げてください。あなたの居場所はいつか、絶対に見つかります。だから大丈夫だよ。

 ◇いけざわ・はるな ギリシャ生まれ、横浜市や東京都世田谷区で育つ。代表作はアニメ「爆走兄弟レッツ&ゴー!!」(主人公・星馬豪役)や、「とっとこハム太郎」(ハム太郎の飼い主・ロコちゃん役)、「ふたりはプリキュア」(ポルン役)など。作家や書評家としても活動し、2020年から2年間「日本SF作家クラブ」の会長を務めた。

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