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「年をとることは、やりきれなく切ない」……女優岸恵子さんの胸を打つ本の中の一言

読売新聞 / 2024年8月29日 17時0分

 女優の岸恵子さんのエッセー『91歳5か月』(幻冬舎)が目に留まったのは、数字を使った題名のためです。よく人生は、数字の2乗の年齢で節目を迎えると言います。

 1歳から2の2乗(4歳)までが幼児期、3の2乗(9歳)までは子供期。4の2乗(16歳)までが思春期で5の2乗(25歳)が青春期。以下、36歳、49歳、64歳……と続きます。何となく9の2乗(81歳)で一段落な感じはしますが、その先にどんなステージが待つのか興味を覚えました。

 新著は、過去に交流があった人のことを記します。「初恋」の相手だった俳優の鶴田浩二、母親が亡くなったとき見舞いに来たという萩原健一。ノーベル文学賞作家の川端康成に元首相の中曽根康弘。岸さんは24歳のとき、結婚のためフランスに渡り、後に離婚しました。長く日仏を行き来し、様々な出会いの中で女優を続けました。誰もまねできない人生の記録が面白くないわけがありません。

 けれど本当に胸を打たれたのは日本に帰り、ある街の高台の家で一人暮らしをする近況を書いた「終わりに」の文章です。<年をとることは、やりきれなく切ない>。著者ははっきりと言います。大事な旧友が難病になり、転んで骨折をして、一人での散歩をやめ、自然とテレビを見る時間が長くなる。9の2乗から10の2乗へと向かう人生のステージは、かくも過酷なものなのでしょうか。

 どんな生き方をしても人間は、日暮れのときが来ます。老いとはy=x2の加速度曲線を描くように、人生の大切なものを大急ぎで神様に返す日々なのかもしれません。その姿はきっと、やがて私たちが迎える日でもあるのです。

今月のもう一点

 吉本ばなな『下町サイキック』(河出書房新社)。中学生のキヨカと、近くに住む友おじさん。人間の精神の肌合いといったものを考えさせる作品集。

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