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老老介護で看取りの42日間、息子が撮影 在宅死の過程リアルに…映画「あなたのおみとり」

読売新聞 / 2024年9月6日 16時24分

別れの日々を濃密に過ごそうと、献身的にケアをした幸子さん。夫婦の思い出の童謡を幸子さんが1時間歌った後、壮さんは息を引き取った ©EIGA no MURA

 末期がんで入退院を繰り返した末、「家に帰りたい」と強く望んだ91歳の父。自宅での () ()りを決意し、老老介護に奮闘する86歳の母。42日間の最期の日々を息子で、映画監督の村上浩康さん(58)が記録したドキュメンタリー「あなたのおみとり」(配給リガード、95分)が、14日からポレポレ東中野(東京・中野)など全国で順次公開される。村上さんは「誰もがいつか看取り、看取られる立場になる。最期は家に帰りたい、帰らせたいと考えている人がいたら、在宅での様々な福祉の支援が描かれているこの映画を一つのモデルとして見てほしい」と話している。(デジタル編集部 斎藤健二)

衰弱する父、生き生きとする母 受け継がれる生命力

 村上さんの父・ (さこう)さんは胆管がんを患い、余命宣告を受け、2023年6月から自宅に戻った。86歳の1人だけで在宅看取りは無理だろう――。多くの人がこう考える。そんな中、母・幸子さんは訪問介護などのケアチームに支えられながら、壮さんが寝入るまで足をさすってあげるなど献身的に世話を続ける。心臓の持病の悪化で体調を崩すこともあったが、家に出入りするケアチームの人たちと新たなつながりが生まれ、壮さんが衰弱するのとは反比例するように、幸子さんは生き生きとしていく。「父の生命としてのエネルギーが母に受け継がれていくようだった。死は失うだけではなく、新たなものを作り出すのだと思った」と村上さんは振り返る。

介護巡って言い争い 思いついた撮影、父の死を徹底的に記録

 東京在住の村上さんが、看取りの過程を記録しようと決めたのは、仙台市の実家での老老介護が始まって1週間たった頃。村上さんは、東京と仙台を往復し、在宅介護を支えたが、オムツ交換や食事の与え方など細かいことで幸子さんと言い争うことが増えていた。もっと上手に看取りと関わっていくにはどうしたらよいか。思いついたのがドキュメンタリーの撮影だった。

 おもむろに2人にカメラを向け始めると何も言わなかった。事実上の承諾と受け止め、自宅と実家を行き来しながらの撮影が始まった。「父とはいえ、1人の命が消えていく様子を撮らせてもらう事実は重い。私情を挟まず徹底的に父の死を見つめようと決めた」

 村上さんは撮影を通じ、泥沼にはまっていくような介護生活を動画や写真、あるいは日記で記録することは、厳しい現実や困難を乗り越えるツールになると感じたという。もう一つの視点が生まれ、振り返ることも出来るからだ。

「楽しくない人だった」 60年寄り添った夫婦のお別れ

 幸子さんは、映画の中で「86歳でやることがあるのはいいこと。私が介護することで、病院のベッドを一つ空けて必要な人に医療を届けられる」と語っている。在宅介護の重労働を天命と受け止め、ケアに尽力する。愛情で固く結ばれた夫婦というわけではない。むしろ仲は悪かったという。「本当に楽しくない人だった」。壮さんについての不満も映画の中ではあけすけに語られる。

 看取りは、介護であるとともにお別れの時間でもある。村上さんは「お見合いという縁で出会い、不満を抱えながらも約60年寄り添った老夫婦が、お別れの42日間を濃密にすごそうとする物語でもある」といい、「その時間を手助けしてくれる看護や介護のプロの仕事には感謝しかなかった」と続ける。

「思い出の童謡」で旅立ち 奇跡的なシーンは父の贈り物

 壮さんの呼吸が乱れ始めて旅立ちの時が近づくと、突然幸子さんは童謡を歌い始める。壮さんは小学校教師、幸子さんは児童福祉の仕事をしており、家で一緒に童謡を歌うこともあったという。村上さんは「最後に父と一緒に歌っているつもりだったのだろう」と考える。幸子さんが1時間歌い続けた後、まもなく壮さんは息を引き取った。

 撮り手である村上さんの不在時に亡くなる可能性もあった。看取り期間も比較的短く、それほど苦しまず体もきれいなまま静かに旅立ったため、映像として抵抗なくまとめられた。「ドキュメンタリーは9割が運。父が最後に息子のわがままを聞いて、映画の体裁を整えてくれた。願わくば父に作品を見せて、多くの人に支えられた幸せな最期だったと実感してほしかった」と語る。

悔いのない人生と完璧な看取りはない

 「東京干潟」(2019年)、「たまねこ、たまびと」(2022年)などで自然と人間の結びつきを表現してきた村上さん。本作でも虫や花など様々な生命を映し出した。病院や施設で亡くなるのが当たり前になり、「人間の死」が日常から遠ざかってしまった一方、我々の周囲には無数の生と死が共存している。村上さんは「大きな意味での死生観を表現したかった。悔いのない人生がないのと同様、完璧な看取りもない。親や自分の人生の最終章を周囲の力を借りながらどう締めくくるか、考えるきっかけになれば」と話している。

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