箱根ランナー「こわだ君」、パラリンピックにきょう登場…ユーチューバーが伴走者に
読売新聞 / 2024年8月30日 8時56分
パリパラリンピックの陸上競技に、異色のランナーが「出場」する。箱根駅伝を走った後、マラソンユーチューバー「こわだ君」として活動する古和田響さん(27)。視覚障害者ランナー・和田伸也(47)の伴走者としての出場だ。ユーチューバーとして楽しいランニングを満喫していた古和田さんだが、競技にもう一度本気で取り組むまさかの事態に「プレッシャーは大きい。だが役目を無事に果たしたい」と意気込みを語っている。(デジタル編集部 池田亮)
「自分がパラリンピックに出ることになるとは、想像もしていませんでした」
8月中旬、和田の強化合宿の終わりに古和田さんは、笑顔の中に充実感を漂わせていた。
和田はパリパラリンピックの5000メートル(30日)とマラソン(9月8日)に出場するが、5000メートルでは東京パラリンピック「銅」を獲得し、現在、世界ランキング5位。マラソンでは2時間23分27秒の世界記録を持つ。パリ大会のマラソンは、障害の軽いクラスの選手と競うことになるが、両種目でのメダル獲得を目指す。
古和田さんと和田との出会いは、2020年2月にさかのぼる。
和田の伴走をしていた高校の先輩、長谷部匠さん(27)から「ユーチューブ撮っていいから、一緒に練習してくれへん?」と誘われた。神奈川大の4年生だった古和田さんは1か月前に、箱根駅伝で9区を走った「バリバリの現役選手」だった。それでも、40歳を超えていた和田の練習は濃密で、ついていくのが精いっぱい。圧倒的な練習量と質の高さに驚きながらも、「大学の練習はライバル意識が強いけど、和田さんの練習はみんなで作り上げていくのがおもしろい」と新鮮味を覚えた。
学生時代は結果がすべてで、競い合うのが陸上だと思っていた。「タイムを出せなかったら、寮に帰るのもしんどかった」。けがで満足に走れなければ、マネジャーとしてチームを支える側にまわる厳しい世界だった。
だが、社会に出てみると、市民ランナーが「禁煙を続けるため」「ダイエットしたいから」とそれぞれの目標に向かって、楽しみながら走っていることを知った。「走る理由は一つではないんだ」
いちずにタイムを追い求めていた学生時代から一転、ランニングの楽しさを伝えようと、ユーチューブやSNSで発信しながら海外のレースに出たり、全国47都道府県のマラソン大会を巡ったりした。まるで、過去の自分にも伝えるかのように熱心に活動した。大学を卒業し、競技者としても「卒業」……。そのはずだったが今年5月、和田の一言が転機となった。
「古和田くん、若さとそのスピードで頼むよ」
予想していなかったわけではないが、和田にパラリンピックでの伴走を頼まれ、再び「競技」にかかわることに。もう腹をくくるしかない。期待に応えたいという気持ちがふつふつと湧いてきた。
ガイドランナーはピッチをそろえ、呼吸を合わせて走るだけではない。トラック競技ではコーナーをスムーズに回る技術が求められる。マラソンでは路面の凹凸、他の選手の状況を和田に伝えながら、気持ちをもり立てて走る。練習はハードだが、すべて和田が目標とする金メダルを取るため。ユーチューブの視聴者から「こわだ君が出るなら、和田さんのことも応援します」と声援をもらい、充実感もある。
5000メートルもマラソンも、長谷部さんが前半を伴走し、後半から登場する予定だ。古和田さんはこう力を込めた。
「箱根駅伝を走って競技者としての火はだいぶ消えてしまっていたが、和田さんと出会い、自分の走りが役に立つことがうれしい。今までの努力のすべてを注ぎたい」
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