1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

車いすマラソンにトヨタが参戦、ザウバーに対抗…選手の直訴に応え2年半で開発

読売新聞 / 2024年9月8日 6時40分

カーボンを貼り合わせて新レーサーのシートを製作するトヨタ自動車の担当者=トヨタ自動車提供

 パリパラリンピックは8日、マラソンなどが行われ11日間の熱戦がフィナーレを迎える。パラのマラソンは、時速50キロに迫ることもあるなど高速で疾走するスタイリッシュな車いすレーサーが見どころの一つだが、今回、このレースに世界のトヨタが初参戦する。なぜトヨタは新しい挑戦に踏み切ったのか。背景には、F1でもしのぎを削った「ザウバー」の存在があった。(デジタル編集部 池田亮)

 トヨタの「新車」に乗り込むのはT54クラスの鈴木朋樹(30)(トヨタ自動車)。東京大会では、ユニバーサルリレーで銅メダルを獲得したもののマラソンは7位に終わった。鈴木にとって悔しかったのは、成績だけが理由ではなかった。その年の冬、トヨタ自動車の社内で開かれた報告会で、豊田章男社長(現会長)にこう訴えた。

 「東京パラ4冠のマルセル・フグが、ザウバーのレーサーに乗っていた。自分もトヨタの社員と一丸となって、もっと競技をがんばりたい」

 マルセル・フグ(スイス)とは、車いすマラソン(T53/54)の世界記録(1時間17分47秒)を持つパラ陸上の第一人者。銀のヘルメット姿から「銀色の弾丸」の異名を取る。そのフグに対し、F1レーシングカーを製造するスイスのザウバーが「F1での経験をすべて駆使して」車いすレーサーを設計していた。

 レースにもこだわりを持つトヨタ。ライバル社を引き合いに出された選手からの直訴を受け、新たな挑戦が始まった。

 あまたの自動車を世に送り出してきたメーカーだが、車いすレーサーの開発は初めて。最初は何も分からず、自転車を組み立てるユーチューブ動画を参考にするほどだった。

 鈴木がこだわったのは、車体が軽くなるフルカーボン仕様。アルミなどの他の部材だと、レーサーを押した時にしなってしまい、100%の力を伝えることができないと感じていた。開発に中心的に携わった車体設計部門のエンジニア橋本紘樹さん(37)はこの要望に対し、レクサススポーツモデルのフレームなどに用いてきたカーボン技術を採用。だが、苦労の連続だった。

 自動車開発であれば、試作した車にエンジニア自身が乗って、感じたことや問題点をチームで共有できる。だが、鈴木にフィットするように作った試作レーサーには、鈴木しか乗り込むことができない。さらに鈴木がレーサーから感じ取った感覚を、エンジニアが受け止めて改良に生かすのが至難の業だった。

 ただ、そこは世界のトヨタ。クラウンなどを生産する元町工場の職人や、車体の設計から風洞試験などを行う性能評価部門の技術者らが参画し、トヨタが誇るものづくりの技術を結集した。さらに、競技用車いすの製造・販売を手がける「オーエックスエンジニアリング(OX)」(千葉市)にも協力を依頼。長年、レーサーづくりに取り組んできたOXの知見と技術力が加わった。

 そして試作を重ねること3回。昨年秋、勝負をかける新しいモデルができあがると、鈴木が記録で応えた。今年2月のワールドグランプリ(ドバイ)の1500メートルで、日本記録を更新。さらに微調整を加えてパリに臨む新レーサーが完成した。鈴木も、この相棒に大満足。「金メダルを取ってきます」と力強く誓った。

 橋本さんはこう期待を込めた。「ねじ1本にまでこだわり、多くの職人の経験にも助けられた。鈴木選手が力を出し切る、そんなレースをしてほしい」

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください