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マリウポリから脱出したパラ選手、ロシアの攻撃で溶けたメダル取り戻す…「泳いで国に貢献」

読売新聞 / 2024年8月31日 5時0分

チュファロフ選手(左)とトレーナーとして支える妻のヤリナさん(7月20日、ポーランド西部ポズナニで)=関口寛人撮影

 パリ・パラリンピックに出場中のウクライナ選手団に、ロシアの侵略で故郷を追われた競泳男子の選手がいる。露軍が占領した南東部の港湾都市マリウポリから命がけで脱出したダニロ・チュファロフ選手(35)は、視覚障害の中でも最も程度が重いクラス「11」で400メートル自由形など6種目に出場する。「ウクライナの不屈の精神を世界に示す」ことが目標だ。(ポーランド西部ポズナニ 倉茂由美子)

 チュファロフ選手は7月、ポーランド西部ポズナニで強化合宿に臨み、自由形やバタフライで泳ぎ続けた。プールサイドでは妻ヤリナさん(33)がターンのタイミングを棒で知らせる「タッパー」を務める。ヤリナさんも軽度の視覚障害者で、2021年の東京大会で銅メダルを獲得した元競泳選手だ。今はトレーナーとして夫を支える。

死と隣り合わせの日々

 チュファロフ選手は幼少時から視力が低下し、今では光と影の識別がやっとだ。12年のロンドン大会の400メートル自由形で銀メダルを獲得するなど、国際大会で長く活躍してきた。練習環境を一変させたのが、ロシアの侵略だ。夫婦で22年2月の侵略直後から激戦の舞台となったマリウポリで約20日間、死と隣り合わせの日々を過ごした。

 露軍の激しい砲撃や空爆が始まり、電気や水、通信はすぐに途絶えた。身を寄せたシェルターは氷点下10度。雨どいの水を飲んだ。スーパーで6時間並んでジャガイモや賞味期限切れのケーキを買った翌日、同じ店の行列にロケット弾が落ち、数十人が死亡した。

 街は次々と破壊され、露軍の動きを察知するには砲弾や銃撃音で感じる距離感だけが頼りだった。3月15日、露軍の接近に気づき、「ここにいれば死ぬ」と脱出を決めた。夫婦は友人の助けを借り、地雷原や16か所の検問をくぐり抜けた。

 南部ザポリージャ近郊経由で西部リウネに避難した。チュファロフ選手は疲弊し、しばらくは抜け殻のようだった。5月には国際大会の誘いも来たが断った。戦禍でスポーツをする意味を見いだせなかった。

ストレスで障害悪化

 ただ、知人らが軍に入り前線へ向かう中、「どうしたら国に貢献できるか」を考えるようになった。自らが出した答えが、競技への復帰だ。リウネでプールを探し、9月から徐々に競技を再開した。

 ロンドンでの銀メダルを含め、これまで手にしたメダルの数々は、避難時にマリウポリの自宅に置いてきた。食料や毛布など生きるのに必要な物を優先したためだ。その自宅は露軍の攻撃で全焼した。地元に残る友人に焼け跡を確認してもらったところ、メダルは溶けてなくなっていたという。

 ストレスで視力も悪化し、今回、従来よりも障害が重いクラスでの出場となる。だが、「強くなった」と感じる。以前は本番で緊張していたが、生死の境で生きた日々が気持ちを強くしたのだという。「戦火で奪われたメダルを取り返す」と闘志を燃やしている。

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