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ベテラン作家が相次ぎ小説翻訳刊行 島田荘司さん、堂場瞬一さん

読売新聞 / 2024年9月9日 15時30分

 ベテラン作家が、相次ぎ翻訳に挑戦した。新本格ブームを 牽引 けんいんしてきた島田荘司さん(75)は、中国発のミステリー、荷午/王小和『動物城2333』(講談社、阿部禾律下訳)を刊行。警察小説で人気の堂場瞬一さん(61)は、エド・マクベイン『キングの身代金』(ハヤカワ文庫)の新訳版を手掛けた。人気作家の筆により、翻訳の魅力も広がっている。(川村律文)

島田荘司さん、中国発ミステリー『動物城2333』

 「作品が翻訳されたことはあったが、自分で訳したことはなかったんじゃないか」と笑顔で語る。下訳の担当者の協力を得ながら翻訳に取り組んだのは、動物たちのミステリーという斬新な発想に驚いたからだ。

 「日本のミステリー、特に『新本格』の型にはまることをよしとする作品風土に、いい刺激を与えられると思いました」

 物語の舞台は、動物たちが人間のような知能を持つようになった西暦2333年。独立のための戦争を経て、人間と冷戦状態にある動物王国の首都・動物城で、和平交渉に訪れた人間側の大使が殺される。調査を依頼されたのは、ロバの名探偵だった。

 カエルやゾウ、パンダなどが、人間のように振る舞う。設定や動物たちの動きはユーモラスだが、背骨にあるのは謎と論理を愛する“本格”のスピリットだ。「本格の精神やセンスは、確かにありました。細かい謎も考えられていた。筋がいいから出てくる」。一方で、読み進めるにつれて、動物たちが人間に恨みを抱き、動物間にヒエラルキーがあることも見えてくる。長引く戦争を背景にした物語は、現代を風刺した 寓話 ぐうわのようでもある。「発想は素晴らしいのですが、本格として体裁を整える作業もあった。(翻訳で)良くなったと思う」

 『占星術殺人事件』などでミステリー界に一大潮流を作ったレジェンドは、中国語圏の「華文ミステリー」の可能性に早くから注目した。台湾で自らの名を冠した文学賞に関わるなど、様々な作品を掘り起こしてきた。「誰も知らないし、刊行しても手にとってもらえない。受賞作の印刷費と製作費のために、クラウドファンディングをやったこともありました」。地道な成果が実り、華文の秀作が日本でも続々と紹介されるようになった。「賞を取っていない作品でも、磨けばいいものがある。華文の世界は底が知れない」

堂場瞬一さん、警察小説の古典『キングの身代金』

 刑事たちの人間模様を描く「87分署」シリーズの中でも、本作は黒沢明の映画『天国と地獄』の原作として知られ、広く読まれてきた。「いまの警察小説のルーツのようなもの。勉強のために、一度、訳しておこうと思った」と語る。

 とはいえ、この本は「一番、シリーズっぽくない作品」でもあった。中心は刑事ではなく、製靴会社の重役・キングだからだ。運転手の息子が、自らの息子と取り違えて誘拐される。身代金を払えば経済的に破滅だ。キングの心は揺れる。「刑事たちのぶつかり合いや家族の問題を書き込むのが、シリーズの新しさだった。代表作が異色作だったことを意識しました」

 原書刊行は1959年だ。米国ミステリーの“古典”を選んだのは、「作中で描かれた格差社会は、現代に通じる」と考えたからだ。キングと運転手の言葉遣いや物腰の違い、豪邸に入った刑事が居心地の悪さを覚える場面など、さりげない描写で格差が強調される。「短い言葉で切り込んで状況を読者に分からせるテクニックは、盗んでおかなければと思った」。物語はコンパクトで、自身の小説に比べてもかなり短い。「本を見て、『薄い』と感じた。シリーズ初期は、ソリッド(硬質)な感じが魅力だったのでしょう」

 マクベインの文章は、「職人的で、あまり凝る人ではない」と感じた。それを素直に、正確に訳すことに心を砕いた。「昔の訳だと会話が古びてしまいがち。そこはいま風にするように心がけました」

 「刑事・鳴沢了」シリーズなどの警察小説からスポーツ小説まで幅広く手がける人気作家。還暦のタイミングで翻訳に取り組んだのは、自らが愛読してきた海外ミステリーへの「恩返し」でもある。「旧訳のままだと絶版になることもある。翻訳ミステリーの文化を絶やさないためには、若い人が読みやすい形にしていくことが必要」と力を込めた。

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