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「霧のコミューン」今福龍太さん 「生の可能性」紡いだ言葉

読売新聞 / 2024年9月6日 15時30分

 潮騒が響いてくる海辺のテラスで話を聞いていて、本書で引用される「もっとも純粋でもっとも厳密な知は曖昧さと魔術と未完成をふくむ」という言葉を思い浮かべた。打ち寄せる波は「絶えざる可変的な運動の豊かさ」であり、霧のようでもあり、「美しく揺らぎ流れる知性の予兆」だ。

 現代社会を覆うテクノロジーは、多くの災厄を可視化させる。戦争、パンデミック、気候変動……。それらは人々から独自に思考する力を奪い、「 (ふん) (べつ)」と権力への従順さを強いるのだという。「霧はそうした権力から身を隠し、見えない『生の可能性』を探究する出発点です」

 文化人類学者として長年、南北アメリカにまたがる調査を行い、多文化の混交に注目した独自の社会文化論を提唱してきた。「学問領域における専門性からできるだけ距離を置き、教える・学ぶといった上下関係を超える知のスタイルを模索してきました」と話す。

霧のようにオーバーラップ

 本書には、主に過去8年の間に折にふれて発表した批評エッセーが収められている。米国のオバマ元大統領の広島訪問に、核を巡る危機の深まりを感じ、スペインの亡命作家ゴイティソーロの死の報に、欧州の道徳的 (ごう) (まん)とパレスチナ人の苦難を想起する。そしてウクライナでの戦争を巡る世界の断絶には、タルコフスキーの映画が内包する歴史の重みが、霧のようにオーバーラップしていく。

 大学の教壇を 退 いてから「吟遊詩人」を名乗るようになった。「あらゆる権威にくみすることなく、日々のささいな出来事から感じ取ったことを言葉に紡いでゆく。それがゆるやかな連帯として何らかのコミューンに発展していくことを願っています」。何かをわかったような顔をするのはもうやめて、潮騒に身を委ねよう。(みすず書房、4730円)松本良一

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