米大統領選「もしトラ」は日本企業にプラス?マイナス? 全産業「マイナス」派だが、「商品卸売業」にプラスが多い理由
J-CASTニュース / 2024年9月2日 19時16分
ドナルド・トランプ氏がウィスコンシン州で集会(写真:AP/アフロ)
民主党のハリス副大統領と、共和党のトランプ前大統領が激突する米大統領選挙。予断を許さない情勢だが、トランプ氏が大統領になった場合の経済への影響は予測不能と言われている。
そんななか、東京商工リサーチが2024年8月26日、「もしトランプ氏就任なら、業績予想は『マイナス』『プラス』?」と国内企業に聞いた調査を発表した。
「わからない」が半数を占めたが、「マイナス」と答えた企業が全産業で「プラス」を上回った。「もしトラ」のどこがリスクになるのか。調査担当者に聞いた。
「プラスの影響」トップは、総合商社など商品卸売業
東京商工リサーチの調査(2024年8月1日~13日)は、全国5956社(うち資本金1億円以上の大企業626社、1億円未満の中小企業5330社)。
トランプ氏が米大統領選で勝利した場合の業績への影響を聞くと、「分からない」(50.6%)が半数を占め、「影響はなさそうだ」(25.6%)も4社に1社だった。ただ、「マイナス」ととらえる企業は16.3%に対し、「プラス」(7.4%)の2倍以上に達した【図表1】。
「マイナス」の割合は、大企業(18.0%)のほうが中小企業(16.0%)より多い。
産業別では、10産業すべてで「マイナス」が「プラス」を上回った。特に、農・林・漁・鉱業(22.4%)、製造業(21.0%)で「マイナス」回答率が高く、トランプ氏が掲げる一律関税などの保護主義的な政策への懸念が強いことがわかった。
産業を細分化した業種別でみると、「プラス」のトップは総合商社が含まれる各種商品卸売業(34.4%)、次に道路旅客運送業(26.3%)。一方、「マイナス」のトップは宿泊業(30.7%)、次に情報通信機械器具製造業(29.4%)となった【図表2】。
次期米大統領の政策で注目する点は何かを聞くと、最高が「通貨・為替政策のあり方」(60.3%)で、「台湾有事を含めた中国との関係性」(50.7%)、「ウクライナ情勢を含めたロシアとの関係性」(7.3%)が続く。輸出産業を中心に、「為替」や「地政学リスク」の注目の高さが表れたかたちだ【図表3】。
興味深いのは、「通貨・為替政策のあり方」が「もしトラ」のプラス、マイナス双方でともにトップだということだ。これはいったい、どういうことだろうか。
不動産業に「プラス」多いのは、「不動産王トランプ」復活に期待か
J‐CASTニュースBiz編集部は、東京商工リサーチ情報部の調査担当者に話を聞いた。
――全体的な結果として「わからない」が5割、「マイナス」が17%、「プラス」が7%、「影響はなさそうだ」が23%でしたが、これをどう評価しますか。また、大企業のほうが中小企業より、「マイナス」と答えた割合が多く、悲観的な傾向が目立ちますが、理由は何でしょうか?
調査担当者 米大統領選は、メディアでも大きく報じられているイベントですが、「わからない」が半数を占め、想定よりも企業の関心が低いことがわかりました。
大企業で「マイナス」割合が高い理由としては、中小企業よりも海外進出した企業が多く、通貨政策や保護主義政策のありかたによって事業環境が変化することを懸念する企業が多いためと考えられます。
――産業別のプラス、マイナスの割合をみると、運輸業がプラス、マイナスともにトップクラスなのはなぜでしょうか。また、不動産業がなぜプラスの割合が高いのかもなぞです。
調査担当者 運輸業界の関心が大きい点としては、原油価格があげられます。
トランプ氏は石油の供給量を増やす姿勢を見せているため、「プラス」回答の企業では石油価格(燃料価格)が下がることを期待していると思われます。「マイナス」企業では、保護主義政策によって日本からの輸出が減り、物流量が減少することを懸念しているのではないかと推察しています。
不動産業で「プラス」と回答した企業は、地場の中小の不動産仲介企業や管理会社の比率が高いです。国内企業から懸念される保護主義政策の影響を直接的に受けにくいこと、景気の変化(好景気)を期待する声が「プラス」比率を高めた一因と思われます。
また、トランプ氏は「不動産王」と呼ばれた人物で、復活により不動産業が活性化する期待を持つ業者もいるのではないでしょうか。
業績好転中の宿泊業、政権交代で水を差されたくない?
――なるほど。業種別では、「プラス」のトップは総合商社が含まれる各種商品卸業ですが、理由は? 道路旅客運送業が「プラス」の2位なのは原油価格が影響しているのでしょうか。
調査担当者 商社は、トランプ氏の掲げる景気拡張策で流通量が上がり、「プラス」影響があると考えた企業が多いのではないかと考えられます。
運送業に関しては、ご指摘のとおり、石油の供給量を増やす姿勢を見せているため、「プラス」回答の企業では原油価格が下がる期待を持っている可能性があります。
――一方、「マイナス」のトップが「宿泊業」、2位が「情報通信機械器具製造業」とありますが、この理由はなんでしょうか。
調査担当者 宿泊業は、現在コロナ禍の落ち着きやインバウンドの増加で需要が急回復し、業況が大きく好転した企業が多いです。政権交代によって、インバウンド客の減少など何らかの環境変化が起こり業績の回復に水を差されることを懸念している企業が多いのではないかと推察しています。
情報通信も含めた製造業に関しては、トランプ氏の掲げる保護主義政策によって、国内製品の対米輸出量や価格競争力に影響が出ることを懸念している可能性があります。個々の企業がトランプ氏の掲げる政策のどの項目に注目するかによって、業種を問わず見方は大きく変わってくると感じました。
大きな変化を求めない国内企業は、ハリス氏のほうがいい?
――トランプ氏の政策からは目が離せないわけですね。なかでも、次期米大統領の政策で注目することとして、「通貨・為替政策のあり方」が跳び抜けて高く、「プラス」でも「マイナス」でも群を抜いています。
全産業が、これほど彼の為替政策に注目しているのはなぜでしょうか。
調査担当者 為替動向は原材料やエネルギー価格に直結し、企業収益を大きく左右します。また、物価高は個人消費に大きく影響するため、どの産業でも関心が高いポイントになります。
――結局、10産業すべてで「マイナス」が「プラス」を上回ったということは、ズバリ、日本経済にとってはトランプ氏よりハリス氏のほうがいいということなのでしょうか?
調査担当者 このアンケートから見る限り、「わからない」が半数を超えており、国内企業は大きな変化を求めていないのではないかと思います。
世界の政治、経済を牽引するアメリカのリーダーが誰になるかは、日本にも大きなインパクトがあります。特に、政策の違いが大きいだけに、秋の大統領選は注目しています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
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