1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

江藤淳、没後25年で復刊や関連本相次ぐ。批評の輝き今も

読売新聞 / 2024年9月5日 15時30分

言葉で闘い続けた江藤淳(1997年撮影)

 戦後を代表する文芸評論家の江藤淳(1932~99年)が今年、没後25年を迎えた。著作の復刊や担当編集者による書籍の刊行が相次いでおり、鋭い言葉で文学に向き合った姿が浮かぶ。(文化部 池田創)

 江藤は慶応大在学中の56年に執筆した『夏目漱石』で新進気鋭の批評家として注目された。同世代の新人作家だった石原慎太郎や大江健三郎らと伴走した。

作品と真剣勝負

 『大江健三郎 江藤淳 全対話』(中央公論新社)は大江と江藤が60~70年に行った四つの対談を収録する。2人の歯に きぬ着せぬ言葉の応酬は刺激に満ちあふれている。

 68年の対談では、大江が前年に「群像」に連載した小説『万延元年のフットボール』が話題の中心となる。江藤は同作の文体や登場人物の名前について批判を展開し、「あなたは何のために書くのですか」と問いかける。大江は「自分自身の生き方を文章において確かめるということを自分の生き方として選んでいるから」と応じ、「あなたはなぜ評論を書くのですか」と反問する。

 解説を執筆した江藤の担当編集者だった平山周吉さん(72)は「江藤さんと大江さんは、お互いに一流の読み手だった」と話す。

 対談における江藤の「ぼくは大江さんに対していつも否定的批判者であるかもしれないけれども、ほとんど義務感に似た深甚な関心を持っている」という言葉が印象的だ。作家が生み出した作品について、真剣に向き合っていた批評家の姿が迫ってくる。

「戦後」と闘う

 江藤は文芸批評だけでなく、『一九四六年憲法――その拘束』『 とざされた言語空間』などを発表し、米国の影響下でつくられた憲法や戦後社会を批判した。『江藤淳はいかに「戦後」と闘ったのか』(中央公論新社)は、批評家としての軌跡を丁寧にたどる。江藤淳という人物を主人公に据え、同時代を生きた文学者たちが交差する一冊だ。

 著者の文芸評論家、風元正さん(63)は「江藤さんにとって、批評は社会を変革する手段だった」と語る。本書では、江藤が新聞に発表した文芸時評についても、深い考察が加えられる。

 「身近な人が書いたものも批判し、政治的な立場が違う人の作品でも良いものはしっかり褒めている。先入観なしで小説を読んで、批評した、非常に公平な人だった」

 平山さんと風元さんは、2022年から刊行が続く電子版『江藤淳全集』に携わっており、全文芸時評を6巻にわたって収録する。平山さんは「江藤さんは文学の『現場』で考え続けた人だった。江藤さんがどのように当時の文学作品を捉え、感じていたのかを追体験してほしい」と話す。

妻の最期、献身

 最後に今年復刊された『妻と私・幼年時代』(文春学芸ライブラリー)を紹介したい。末期がんと診断された妻に献身的な介護を続けた日々をつづった手記だ。

昏睡 こんすい 状態の妻に向かって、声をかけ続ける。意識が一時的に戻ったとき、夫婦の間で静かに交わされる無言の会話は深い愛に包まれる。

 <君の生命が絶えても、自分に意識がある限り、君は私の記憶のなかで生きつづけて行くのだ>

 江藤は妻の亡くなった翌年の雷雨の日に、自ら命を絶った。はかなくも美しい言葉は、没後25年がたった今も読者の胸を打つ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください