「水素やアンモニアの利用拡大も商機」「電炉への転換、技術が開発必要でベストウェイ探る」…神戸製鋼所・勝川四志彦社長
読売新聞 / 2024年9月10日 12時0分
「コベルコ」のブランドで知られる神戸製鋼所は、鉄鋼だけでなく、アルミニウムや産業機械、電力など、競合とは違う事業を手がけている。多様な人材や事業と技術のかけ算で社会課題の解決を目指す。勝川四志彦社長に話を聞いた。(聞き手・田中俊資)
幅広く他社とは違う提案
――神戸製鋼所の強みは。
「幅広く提案できるのが強みだ。素材系では、自動車の製品が多い。乗っている人たちをハイテンと呼ばれる骨格で守る。骨格にハイテン、パネル部分にアルミ材といった様々な組み合わせが提案できる。建設業界のお客様には、鋼材や溶材、建設機械も提供できる。造船向けには鋼材だけでなく、エンジン部品や圧縮機、熱交換器といったトータルのエネルギー効率アップにつながる製品を提案できる。
ここから先は知りませんではなく、他社とは違う提案ができるので、お客様からも期待してもらっている。当社は素材や産業機械、建設機械、電力など、国をつくり、人々が幸福に暮らせるために必要となるビジネスが多い。基礎資材でしかないから、なかなか目立たない。派手ではないが、地味に社会を支えている。
その中で、社会課題を見つけ、解決することをコンセプトにしている。たとえば、水や電気のような、あって当たり前のモノを実際に当たり前にすることができる会社だと思う」
――脱炭素やエネルギーの転換は商機となる。
「鉄鉱石を天然ガスや水素で還元する直接還元鉄の製造技術を子会社が持っている。鉄鋼メーカーで、電炉が普及することで、プラントを受注するビジネスが大きく広がるだろう。電炉は高炉に比べて、生産時の二酸化炭素(CO2)の排出量を大幅に減らせる。中東のオマーンで還元鉄を生産し、原材料として販売するビジネスも検討している。
(燃やしてもCO2を出さない)水素やアンモニアの利用拡大も商機で、それに応じたインフラが必要になる。液化して輸送された水素やアンモニアをガス化する気化器や、ガスを圧縮して送り出す圧縮機のように、強みを持つ産業機械の需要増も期待している」
――加古川製鉄所(兵庫県)の高炉1基を電炉に転換する検討を始めた。
「電炉で高級鋼材をつくるための技術開発が必要だ。原料となる鉄スクラップに異物が多いと耐久性が落ちるため、(鋼の原料になる)鉄源も重要だ。一方で、我々は高炉を2基しか持っていないため、慎重に判断する必要がある。半分が電炉になるので、会社の屋台骨を揺るがすことになりかねない。高炉の改修時期は2030年代後半で、時間はある。我々にとってのベストウェイを探っていきたい」
地産地消に対応した増強
――鉄鋼事業で、アジアでの生産強化を掲げている。
「クローズドリサイクルと言っているが、お客様に材料を納めて加工すると端材が出る。これをもう一度同じ材料に戻すこと。こうしたリサイクルを含め、どんどん地産地消が進んでいく。それに対応した増強が必要になる。現在はタイに(圧延やめっき加工といった)下工程があるので、安定的に鋼材が供給できる体制をつくっていきたい。多額の費用もかかるので、他社との提携も有力な候補になると思う」
――価格交渉に向けた考え方を。
「24年春闘もそうだったが、固定費は増えていく。働き方改革を含めて、生産性を上げなければならないが、単価も上げて好循環を生むという流れになっていくと思う。お客様に提案をして、少しでも付加価値を高めていく。たとえば、これまでは納期に何か月かかかっていたところを、少しでも短く、または、ロットを細かく出せますよとか。お客様のメリットがある提供ができて、付加価値も生まれて価格に反映していく。そうしたことを繰り返すしかない」
――円安が事業に与える影響は。
「鉄鋼やアルミなどの素材系は、原材料を輸入し、主に国内市場向けに販売するので、円安は厳しい。産業機械や建設機械は輸出が多いので、円安はありがたい。トータルでみれば、おおむねバランスしている。ただ、円安の方が輸出中心の顧客の収益が改善するので、ビジネス環境は良くなる。とはいえ、現在の水準は行き過ぎだ。1ドル=130~135円程度が適正水準なのではないか」
※取材当時の円相場は1ドル=150円台半ば。
――品質不正が見つかってから時間が過ぎた。組織はどう変わったか。
「不正の発覚後、
◆勝川四志彦氏(かつかわ・よしひこ) 1985年神戸商科大(現兵庫県立大)商経卒、入社。副社長を経て、2024年4月から社長。機械事業出身で、経営企画担当役員として全社的な戦略立案も担った。趣味は城跡巡り。関東平野を一望できる栃木県の唐沢山城跡がお気に入りだ。兵庫県出身。
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