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サッカーを見たことがない17歳のストライカー、急逝した恩師へ「恩返し」のドリブル突破

読売新聞 / 2024年9月6日 5時49分

対コロンビア戦で相手選手のボールを奪いに行く平林太一選手(中央)(1日、パリで)=古厩正樹撮影

 【パリ=塚本康平】ブラインドサッカー日本代表は予選1次リーグと順位決定戦の計4戦で全敗し、8位でパリ・パラリンピックの全日程を終えた。全盲の若きストライカー平林太一選手(17)は、サッカーを手取り足取り教えてくれた恩師を開幕直前に失った。悲しみを抱えながらも、初挑戦の大舞台を戦いきった。

 5日に迎えたトルコとの順位決定戦。平林選手がドリブルを始めると、まるで目の前が見えるかのように、相手選手を次々にかわしていった。放ったシュートはチーム最多の6本。しかしキーパーの好守に阻まれ、そのまま試合は終了。チームメートと健闘をたたえあいながら、ほろ苦い思いをかみしめた。

 先天性の網膜芽細胞腫で、4歳までに両目が義眼になった。長野県松本盲学校小学部に入学した2013年、日本ブラインドサッカー協会の体験会に参加し、競技を始めた。

 協会の育成コースに入ったが、上京しなければならず、2か月に1回ほどしか指導を受けられなかった。そこで、コーチを引き受けてくれたのが、サッカー経験があり、同校の職員だった 梨子田 なしだ幸治さん(51)。放課後の校庭で週1回、2人だけの特訓が始まった。

蹴り方も一から教わる

 平林選手はサッカーを見たことがない。梨子田さんは「ボールのそばに左足を置き、右足にボールを乗せて振るんだ」と、平林選手の両足を持って動かしながら、ボールを蹴る動作を一から教えた。

 ブラインドサッカーは、選手の声や気配、「シャカシャカ」と鳴るボールの音を頼りにプレーする。梨子田さんは、音を頼りに障害物の位置を読み取る平林選手の優れた「空間認知能力」に目をつけた。校庭に赤いコーンを並べ、先端をたたく音からコースを思い描かせ、ぶつからないようドリブルをさせた。繰り返し練習させ、ドリブルで相手を抜き去るための距離感やコースを体に染み込ませた。

 負けん気の強さも人一倍だった。1対1の練習では何度転んでも梨子田さんに向かっていき、最後は体にしがみついた。休み時間も黙々と自主練をする姿を見守りながら、梨子田さんは「きっとパラリンピックに行けるよ」と励ました。

史上最年少ゴールも記録

 中学進学とともに地元チームに入ると早速、頭角を現した。1年生で出場した日本選手権で、12歳7か月の史上最年少ゴール記録を樹立。15歳で日本代表の強化指定選手になり、昨年8月の世界選手権ではチーム最多の4ゴールを決め、パリ切符獲得の原動力となった。

 意気揚々と乗り込んだパリ。そこで、梨子田さんが開幕を2日後に控えた8月26日に急逝したとの悲報に接した。昨年末に会った時は、「メダルを持ち帰ります」と約束したのに……。「試合を見てほしかった」と泣きじゃくった。

 「先生に恩返しをする」と心に決めて戦ったパリ大会は勝利こそならなかったが、華麗なプレーで観衆をわかせた。「先生に何も見せることができなかった。またパラリンピックに戻ってきて、結果を出したい」。試合後、ロサンゼルス大会での雪辱を涙ながらに誓った。

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