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バンド音楽を聞き取り楽譜模倣、サイト公開に賠償命令…東京高裁判決「労力にただ乗り」

読売新聞 / 2024年9月7日 5時0分

 バンド音楽を聞き取って制作した楽譜を模倣され、無断でウェブサイトに公開された場合、損害賠償を求められるか。この点が争われた裁判で、東京高裁が6月、「制作者の労力にフリーライド(ただ乗り)する行為だ」としてサイト運営会社に賠償を命じる判決を出した。著作権の保護が及ばないとされる楽譜制作を巡り賠償責任を認めるのは珍しく、「『ただ乗り』に歯止めをかける判断」として注目される。(徳山喜翔)

制作に2週間

 原告は、東京都内の楽譜出版社「フェアリー」。録音現場で演奏しながら作曲されるバンド音楽には完全な楽譜が存在しないことが多く、同社は日本音楽著作権協会(JASRAC)の許諾を得て、音源を聞きながら楽譜を書き起こし販売している。

 フェアリー社によると、楽譜の制作にあたっては、音楽の知識や経験がある人が、様々な楽器が奏でる音の高さや音色、リズムを聞き分けて、譜面に正確に再現することが求められる。音源を繰り返し聞く必要があり、1曲の楽譜制作に2週間程度かかる。

 フェアリー社から楽譜を購入する都内のサイト運営会社が、類似の楽譜を無料公開して広告料を得るサイトを開設したため、フェアリー社は2018年6月、「売り上げが激減した」として提訴し、5億円の賠償を求めた。

著作権の対象外

 裁判で焦点となったのは、楽譜を模倣した場合、制作した出版社の権利や利益を侵害したと言えるかという点だ。

 著作権法は「思想、感情の創作表現」を保護の対象と定めている。楽譜の制作は、音源を忠実に再現するもので創作性はなく、著作権の保護対象ではないとされる。フェアリー社は楽譜の模倣とサイトでの無断公開について「他人の権利・利益を侵害したら賠償責任を負う」とした民法の不法行為に当たると訴えた。

 21年9月の1審・東京地裁判決は模倣自体を否定し、原告の請求を棄却した。フェアリー社が控訴したところ、高裁は6月19日付の判決で、楽譜の表記の一致率が90%超と極めて高いなどとして、579曲分について模倣を認定し、同社の逆転勝訴とした。

 楽譜の制作には「高度で特殊な技能の習得が必要だ」とし、多大な時間や労力、費用がかかっている点を重視。無断で模倣する行為が許されれば、楽譜を制作する動機が大きく損なわれ、「音楽文化の発展を阻害しかねない」と踏み込んだ。

 模倣行為を「ただ乗りだ」として不法行為と結論づけ、同社の逸失利益など約1億7000万円の賠償をサイト運営会社に命じた。

わかりやすい基準を

 高裁判決について、フェアリー社は「模倣を許せば、業界自体が成り立たない。判断は妥当だ」と話す。一方、サイト運営会社側は「著作権法で保護されていない制作物は自由に利用できるはずだ」と批判。「利用を制限すれば新規ビジネスの創出が阻害されかねない」として最高裁に上告した。

 上野達弘・早稲田大教授(知的財産法)は「他人の労力や費用への『ただ乗り』を不法行為と認めたのは画期的で、音楽文化の発展の阻害という事情を考慮したのも特徴的だ」と指摘。「知財関連の全ての問題を立法でカバーするのは困難で、司法で妥当な解決に導くことが求められる。今回の訴訟でも、無断利用が許されない基準などについて最高裁がわかりやすく示すことを期待したい」と話す。

「声」の権利求める意見も

 SNSでは近年、生成AI(人工知能)で人気歌手や声優らの声を勝手に使って歌を歌わせる動画が投稿されるなど、「声」の無断利用も問題となっている。

 日本俳優連合(東京)が昨年末~今年2月に調査したところ、声優の声を無断利用した動画がSNS上で計267人分確認された。現行法で声の権利は明文化されておらず、著作権はないとされる。同連合は「新しい技術が表現の模倣や盗用を促している」などとして、声優らの権利を保護する法整備を国に訴え、無断利用をやめるよう呼びかけている。

 知的財産に詳しい福岡真之介弁護士は「歌手や声優の名前を明示した上で無断利用し収益を得れば、不法行為になる可能性はある。SNSの発信者は違法と判断されるリスクを認識すべきだ」と指摘している。

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