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大規模停電引き起こした台風15号から5年、エアコン止まり夫を熱中症で亡くした妻…ホテル守り続ける

読売新聞 / 2024年9月7日 11時46分

大浜芳満さん

 記録的な暴風で首都圏に大規模停電を引き起こした2019年の台風15号は、千葉県に上陸して9日で5年となる。市原市では夫婦が経営するビジネスホテルのエアコンが止まり、宿泊客のために仕事を続けた夫が熱中症で亡くなった。「責任感ある夫が守ろうとしたホテル。やめるわけにはいかない」。妻の大浜うのさん(54)は悲しみを乗り越え、仕事を引き継いだ。(千葉支局 落合俊)

 19年9月9日未明、うのさんと夫の芳満さん(当時66歳)は隣接する自宅で停電に気づいた。ホテルの様子を確認すると、ごみ箱が暴風の中を舞っていた。宿泊客は45人ほどで、夫婦は懐中電灯を配るなどの対応にあたった。

 夜が明けても停電は続いた。断水も発生した。残暑が厳しく、事務所は蒸し風呂のようだった。芳満さんには心臓に持病があるため、うのさんは避難することも勧めたが、芳満さんは「何か起きたら経営者の責任。暑さを我慢しているお客さんにも失礼だ」と気丈に振る舞った。ただ、うのさんが手作りしたおにぎりに手をつけることはなく、夕方には「俺はもう無理だ」と気力をなくしていた。

 「暑い、暑い。氷水はないか」。翌10日朝、芳満さんは真っ赤な顔で訴えた。うのさんは、知人にもらった氷を入れた水を飲ませて休ませた。何度も様子を見ながら、ホテルで夕飯の支度を済ませて自宅に戻ると、芳満さんがトイレの前で倒れていた。顔はむくみ、体が熱い。救急搬送したが、医師には「熱中症で亡くなった」と告げられた。

 10日の市原市の最高気温は35・3度だった。電気が復旧したのは12日未明だった。

 ホテルは、芳満さんの母の代から半世紀ほど続く。工場が近く、常連や長期滞在者も多い。1999年に結婚してからは二人三脚でやってきた。うのさんは、芳満さんが亡くなる数か月前、「あと10年は一緒に生きたい」と口にし、夫婦で続けるホテル経営を楽しんでいたことを思い出した。「男らしく優しくて二度と出会えないような人。ここでやめるわけにはいかない。主人も望んでいる」と奮い立った。

 台風15号を教訓にホテルでは懐中電灯、飲料水などの備蓄を増やした。調理室と食堂用に自家発電機2台も導入した。災害時の情報の重要性についても身をもって知り、うのさんは「お客さんの安全を守るためにも自分から情報収集に努めたい」と気を引き締める。

 ◆2019年の台風15号=9月9日早朝に千葉市に上陸。同市で最大瞬間風速57・5メートルを記録した。電線が切れるなどして東京電力管内では最大93万4900戸が停電し、復旧に約2週間かかった。千葉県では熱中症による死者が相次ぎ、12人が関連死に認定された。

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