車いすの仕様変更で「人車一体」のショット…上地結衣が宿敵破り頂点に立つ
読売新聞 / 2024年9月7日 15時8分
パリ・パラリンピックの車いすテニス女子のシングルスとダブルスで2冠を達成した上地結衣選手(30)は昨年、宿敵ディーデ・デフロート選手(27)(オランダ)を破るため、慣れ親しんだ車いすの仕様を変更する賭けに出た。従来は普通のシートだったが、体を包み込む「バケットシート」に切り替え、1年かけて仕上げた最高の車いすで最高の結果を残した。
(松本慎平、福永正樹)
「打倒デフロート」。銀メダルに終わった東京大会からの3年間、上地選手はそれだけを目標に戦ってきた。2021年2月の勝利を最後に、東京大会決勝を含めて28連敗した最強のライバルを倒さなければ、金メダルは実現しなかった。
「より良いプレーのために、変えられる所は全部変えよう」。上地選手が着目したのは、選手にとって体の一部とも言うべき「車いす」だった。昨年6月、車いすテニス界のレジェンド、国枝慎吾さん(40)の紹介で福祉用具会社「川村義肢」(大阪府大東市)を訪問し、意見を求めた。
同社は、国枝さんら選手の体にフィットするバケットシートを制作する技術を持ったメーカー。開発部の職人で、国枝さんを担当していた中島博光さん(54)に対応してもらった。本番まで時間がない中での変更に対し、周囲から反対の声もある中、上地選手は「もっと上手になれる可能性がある」と変革を選択。サポートを受けている競技用車いすメーカー「オーエックスエンジニアリング」(千葉市若葉区)にも、シート変更に伴う新たな車いす開発を依頼した。
中島さんは発泡剤を使って上地選手の型を抜いて専用シートを造形。昨年末に初めて完成品に乗ってもらい、上地選手から「すごくいい。全てが包まれている」とお墨付きを得た。
「チーム上地」の結束実る
車いすの調整などは、国枝さん、上地選手、コーチ、中島さんの4人が「チーム上地」として、LINEでこまめに連絡を取り合って相談した。次第に体との一体感が高まり、パリ大会直前の今年7月には、デフロート選手に約3年5か月ぶりに勝利。最後は、ローランギャロスの赤土に合わせる調整を行ってパリに乗り込んだ。
迎えた本番。徐々に調子を上げ、シングルス準決勝では「車いすと一体化して打てたショットがあった」という。デフロート選手との決勝では、ドロップショットなど「考えていたプレーができた」と、第2、第3セットを巧みなストロークで連取した。
優勝が決まった瞬間、歓喜のあまり涙が止まらなかった。ベースライン近くで動けなくなり、反対側のコートから来たデフロート選手に祝福されて抱き合った。
日本で観戦した中島さんは「粘り強く戦い、小さい体でよくぞ倒してくれた。本当におめでとう」とたたえた。上地選手は試合後、「諦めずに信じてくれた人たちに感謝の気持ちを伝えたい」と語った。
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