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津波避難タワーの鍵開かず、高台に急ぐ車も渋滞…日向灘地震で初動の課題浮き彫り

読売新聞 / 2024年9月8日 1時43分

地震の際に蹴破った緊急用避難扉を前に、「緊急時にはためらいなく破ることを周知して」と話す男性(8月27日、宮崎県延岡市で)=尾谷謙一郎撮影

 宮崎県で最大震度6弱を観測した日向灘を震源とする地震から、8日で1か月。津波注意報が発表された九州の沿岸部は、南海トラフ地震でも津波の到達が見込まれ、自治体や関係機関は初動対応などの見直しを始めている。住民の避難が一部で滞るなど新たな課題も浮き彫りとなり、識者は、今回の経験を津波防災の教訓とするべきだと指摘する。

 宮崎県延岡市長浜町区長の男性(76)は地震の数分後、近所の高齢者を伴って自宅そばの津波避難タワーを訪れた。すでに6、7人が集まっていたが、「入り口の扉が開かない」と慌てた様子で、外にとどまっていたという。

 タワーは高さ約10メートルで最大440人を収容でき、市が約1億円かけて2016年に整備した。普段は施錠されており、震度5弱以上の揺れを感知すると「解錠ボックス」を開くことができるようになり、鍵を取り出せる仕組み。しかし、市の最大震度は4で、ボックスは開かなかった。

 そばには厚さ6ミリのボードでできた「緊急用避難扉」があり、蹴り破ってタワーに入ることも可能だ。イラスト付きの説明書きも掲示されているが、ちゅうちょしたとみられる。扉を蹴破り、住民らを中に入れた甲斐さんは「災害時は1分1秒を争う。迅速にタワーに入れた方がいい」と話す。

 市内の津波避難ビルとして指定している病院や福祉施設でも、揺れを感知する解錠ボックスが採用されている。市の担当者は、施錠に関して「ビルは防犯上のリスクがあり、タワーの常時開放には落下事故などの危険がある」と説明。その上で「緊急時には、ためらいなくボードを破ることができるよう周知徹底を図りたい」としている。

 激しい揺れや津波に直面し、初めて南海トラフ地震の臨時情報(巨大地震注意)も発表されたことで、沿岸部の関係者は危機感を高めて対応策や備えの強化に動き出している。

 震度6弱を観測した同県日南市の愛泉会日南病院は、1階の入院病棟を2階に垂直移転させることを決めた。

 自力での移動が難しい重症心身障害児・者を中心に120人以上が入院しており、地震の際はスタッフ70人ほどで、1階の入院患者約40人を抱え上げるなどして2階に避難させた。

 病院は海岸から約200メートルと近いため元々計画はあったが、予定を前倒しし、年度内に移すことにしたという。西島元利理事長は「今できる最善の計画。数年後には病院を内陸地へ移転させたい考えもある」と話す。

 同県門川町では地震直後、高台の町役場などに避難する車で渋滞が起きた。町によると、列車が線路上で緊急停止し、近くの踏切の遮断機が上がらなくなったことが要因の一つという。町の担当者は「渋滞で津波に巻き込まれるリスクがある。できるだけ徒歩で近くの高台などに避難するよう呼びかけていく」と話す。

 大分県臼杵市は、津波注意報や津波警報が出た際に防災無線で放送する原稿を用意した。地震前から大まかな伝達内容は決めていたが、誰でも速やかに対応できるよう8月下旬に作成した。市防災危機管理課の河野亮・副主幹は「防災無線は住民の命を守る重要な役割を担っている。危険が迫っていることをスピーディーに伝えたい」と話した。

 静岡大防災総合センターの原田賢治准教授(津波工学)は「南海トラフ地震では深刻な被害も予想される。今回の経験を教訓にするために、個人や地域、行政がそれぞれ対応や行動を振り返り、備えを見直したり、防災意識を高めたりする必要がある」と指摘する。

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